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気まずい時間
ふたり並んで部屋へ向かう。
エレベーターを降りると、
さっきまでの喧騒がウソのように静まり返っていた。
ドアの前まできて、
笠井さんが抱きついたシーンが蘇る。
無意識に目を逸らした。
玄関に入ると、彼女もこの部屋に入ったのだろうか?
と、気になった。
「―― 笠井さんをこの部屋に入れた事はない。
もちろん玄関にもだ」
見透かされてしまった。
「彼女は地元の警官だからな、ここの管理人とも
顔見知りでこのフロアまで上がって来られたんだ」
「別にボクは……」
「でも、気になったろ?」
「ん……う、ん、それは、まぁ……」
「ところでだ、俺も気になる事がひとつあるんだが……」
と言いながらキヨさんは寝室に行き、
小ぶりのボストンバッグを持って戻ってきた。
それを見て表情が固まった。
そのバッグはキヨさんが旅行へ行く為、
用意したモノではなく ……
「……」
「この、やたら重量感のあるバッグを持って、
一体何処へ行こうとしてたんだ?」
「あ、それは ―― その……」
ボクが、非常時に備えクローゼットの奥へ
隠していたバッグ。
キヨさんはとっさに目を伏せたボクをじーっと見つめ
ながら、どっかり腰を下ろした。
もう、下手に言い逃れは出来ない雰囲気……
だって、キヨさんの目はいつもの温かくて優しい目
ではなく ―― 経験を積んだ刑事の目。
目を合わせていなくても、
まるで射抜かれるような視線がひしひしと
伝わってくる。
「ユーリ、こっちにおいで」
ポンポンと叩いたのはあぐらをかいた
キヨさんの脚の上。
え ――っ。そこに座れって?
無理むり、ぜーったい無理!
今のボクにはハードル高すぎ。
―― 聞こえなかったのか?
お前が来ねぇなら、こっちから捕まえに行くぞ
と、地を這うような重低音で再び促される。
「……何も、しない?」
と、念を押してみる警戒心剥き出しのボクに、
キヨさんはまたあの声で、
―― やっぱり俺がそっちに行くか。
とダメ押し。
その声マジに止めて欲しいっ!
結局ボクは指定された《ココ》ではなく、
キヨさんの隣に渋々腰を下ろした。
そして座ってから( ゚д゚)ハッ!と気が付いた。
ヤバいっ!
ここ、完全にキヨさんのテリトリーじゃん……
ボクのお間抜け……。
足の間に座らず、
ソコに座ったことで本能的にそう感じた。
「―― お前が自分から話してくれるまで、
待つつもりでいたが、もう止めた」
そう言いながら、自分の体重をかけて
ボクを押し倒し、さらにボクの服をぬがせながら
言葉を繋げる、
「お前タイプの子供は直接身体に聞くのが一番なんだ」
「だからってなんで服脱がすの?」
「んなの、ヤリたいからに決まってんだろ」
「はぁっ??」
とにかく「放せ」 ともがいてみるけど、
『お断りだ』とだけ返して、
ボクの両手を頭上で纏めた。
くっそ! 中年のくせに何だよこの馬鹿力はぁっ?!
下から思いっきり睨んでやった。
「ユーリ、それじゃ逆効果だ」
(やっぱお前ってめっちゃ可愛いっ!!)
なっ……何だよ逆効果って。
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