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 隆俊はメモにあった番号にかけるために公衆電話を使うことにした。逃走方法の知識は映画や小説に書かれた情報しかないが、電子機器は利便性と裏腹に追跡されやすいことを知っている。電話の向こうにいる人間が自分にどう関係するのかわからない状態でプリペイドを使うのはいい方法とは思えなかった。ようやく公衆電話を探し恐怖と怒りを飲み下しながら隆俊は電話をかけた。  現在地を伝えるとすぐに迎えの車を寄こすと言っただけで電話は切れた。10分ほどで車が到着し運転席の窓が下ると「隆俊君、早く乗って」と言われ後部座席のドアが開く。後部座席の男に手招きされシートに座ると横になるように言われた。「防犯カメラに映る危険は避けたい」という言葉を聞いて警察とこの男達(しいいては母親)のどちらが安全なのか見当がつかないままドライブは続いた。  隣に座る男は隆俊の動きを察知するためか肩に左手を乗せている。ドアにはロックがかかっているに違いない。ここから逃れる方法を思いつかなかった。  車が止まったのはありふれた4階建ての集合住宅の前。部屋は2Fの角部屋だった。目隠しや拘束をされていないところをみると人質ではないらしい。電話をかけたときより幾分か緊張が解けた。

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