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第30話

Epilogue  次の発情期が来た時に、ダンはジョアンのうなじを噛んだ。  発情期の熱に浮かされながら。際限なく求めるジョアンに応えながら。自らの熱を相手の身体に深く深く沈ませてゆく。  獣人と人の間で番関係ができる可能性は限りなく低い。  何度目かの交わりを経て発情期の気狂いも山を越え、ようやく言葉を紡ぎ出せるようになったジョアンがダンの口元に触れた。指で唇を押し上げて白い歯を舌先で舐める。 「ダン、番になれるまで何度でも噛んで。そうでなければずっと一緒にいてくれ。」  目を丸くしたダンが相好を崩して笑った。 「そうでなければ、と言いながら選択肢になっていないじゃないか。」 「当たり前だ。」 「お前のうなじを喰らい尽くすまで。一時(いっとき)でも一生でもお前の望むままに共にいる。」  ジョアンは満足げに微笑んで、もう一度ダンを求めた。  幸せすぎて、夢のようだ。この腕も身体も全てが自分を求め続けてくれる。欲しいと言った分だけいくらでも与えて充足してくれる。心も身体もずっと満ちているのだ。    だから時々ふと思う。  本当の自分はあの時壊れて今も眠っているんじゃないだろうか、と。  今日は窓の外から聞こえる葉擦れの音がやけにうるさく、夕方なのに既に薄暗い。季節外れの雨でも降るのだろうか。部屋の中はもう暗すぎて手元も薄ぼんやりとしか見えなくなってきた。  まるで沼の中にいるみたいだ。全てを包んでくれる温かく優しい泥。  遠くからダンの歌う声が聞こえたような気がした。        恋に酔い ともに(いこ)いて 夢に(ふけ)らん        夢に耽らん 夢に 【完】

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