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第10話

 あの夜から半月と五日。赤松には会っていない。  そもそもそこまで頻繁に連絡を取り合っていたわけではないし、たかが半月ちょっと連絡を取っていないからといってどうという事はなかった──そう、今までは。 「何、もう帰んの? せっかくだし飯でも行かね?」 「や。いいや。なんか、身体だりぃし……」  ホテルの一室でシャワーを浴び身支度を整えて、つい数時間前に知り合ってお互いの欲を吐き出しただけの相手に返事を返す。  友和とも元はこうして知りあった。昨今はネットやSNSの普及でそういった相手を探すのもそう難しい事ではなくなった。友和と付き合う前はこうして時々適当な相手を探しては、その場限りの身体の関係を持っていた。  久しぶりにそんな気分になって、相手を探してはみたが、相性は悪くなかったはずなのに何故か虚しさだけが残った。 「俺、先帰んね」 「また連絡してもいいよな?」 「あー…うん。忙しいからあんま都合合わないかもだけど」 「じゃあ。またな」 「うん」  本当はもう会う気などない。ここで相手の機嫌を損ねるよりは、適当に合わせておいた方がお互い気持ちよくサヨナラできる。  向こうもあくまで社交辞令、もしくは、そういう相手を何人かキープしておきたいだけの事。互いにそこまで執着しないのがルールだ。  ホテルを出て街中の大通りを歩く。土曜の夜ということもあって、通りは家族連れやカップルで賑わっている。  時間的には少し遅めの夕食にあたる時間だが、腹が減ったというよりはなんだか一息つきたい気分で、通り沿いにあるコーヒーショップに立ち寄った。  カウンターでコーヒーを注文し、それを受け取ると窓際の端の席に座った。  少しエアコンが利きすぎていて肌寒いくらいだったが、温かなコーヒーがそんな身体を温めた。 「……ふぅ」  と意味もなく溜息を付いて窓の外を眺めた。目の前の横断歩道を大勢の人たちが行き交って行く。そんな人波の中にふいに赤松によく似た男を見つけて真也はハッと目を凝らした。  けれど、似ていると思ったのはほんの一瞬の事で、たまたま普段来ているスーツの色合いと背格好が似て見えただけで、全くの別人であることに小さく息を吐いた。 「……何やってんだか」  クシャクシャと髪を掴んで俯くと、コーヒーのカップに手を伸ばした。  あの日から。赤松のことばかりを考えている。  あの夜の赤松は、その言葉通り真也を最初は優しく、それから激しく抱いた。  慣れているのはたぶん女を抱くことで、実際身体を繋げてみて男を抱くことにはそれほど慣れてはいない気がした。  けれど、赤松の身体はとても心地よく、今までしてきたセックスとは圧倒的に何かが違っていた。全身からそそけ立つような興奮と快感。どうしてあれほどまでに、翻弄されたのだろう。その理由を知りたくて、あの夜のことを反芻するように他の男と寝てみたが、何もかもが違い過ぎて最早そのセックスに何の価値もないことを思い知るだけだった。  ただ、ひとつ。  赤松が果てるとき、多分無意識にだろうが、後ろから真也の身体に激しくその腰打ちつけながら切れ切れの声で誰かの名を呼んだ気がした。  その声が未だ頭から離れない。  赤松は、自分の身体を利用すればいいと言っていたが、本当は赤松自身にもそうすることで忘れたい、もしくは遂げたい何かがあったのではないか。  あの夜の赤松は、どうでもいい男を抱くにしては優しすぎた。  別れた元妻が、いまだあの男の心を占拠したままなのか。はたまた別の誰かがいるのか。  欲を吐き出すだけの身体の関係と割り切って、いままで複数の男と身体を重ねてきたからこそ分かる。  内側に秘めた想いを持つ男は、その行為の最中内側にある熱を真也にぶつける。 「……」  割り切っていたはずだった。  いままでずっとそうしてきた事だった。相手がただ欲だけを自分に向けているのだとしても、他の誰かと重ねているのだとしても。それはそれ、お互いさまのはずだった。  自分だって同じだ。同じことを相手にしてきたし、それに罪悪感を持つことなど一度もなかった。  なのに──。  どうして今こんなにも気になるのだろう。赤松の心に棲む“誰か”の存在が。

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