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第1話
どうしよう。
恐れていた日がとうとう来てしまった。
番 ってもう五年。獣人と人間の異種同士の夫婦だ。しかも、ドラマの題材にされるほどに希少な《運命の番 》と言うやつで、どうしたって好奇の目に晒されるし、男同士のカップルは世間の風あたりも強い。まあ、そんなことは覚悟の上で一緒になったのだが。
ありがたいことに、理解のある身近な人たちに恵まれていて、根掘り葉掘り不躾な聞かれ方をしたことはなかった。なのに、一番容赦ない質問魔が自分の子供たちだったなんて。
『お父さんの爪が痛いの、うちだけなの?』だって。
『お母さんのおっぱいがペタンコ、うちだけなの?』だって。
比べられたら、そりゃ仕方ないよな。確かにそうだろう。
優しくしているつもりだったのに、俺の爪、痛かったのか……。動揺の余り、普段は子供の前では出さないようにしている牙と尻尾がポロリと出てしまった。
「お泊り会って、獣人と人間のお家じゃなかったの?」
「山本さんち、ママがホルスタイン獣人なんだよ。それで、うちはおっぱい二つしかないしペタンコだねって。……そりゃあ仕方ないよねえ」
「俺らの間に生まれたんだからねえ」
ネコ科最速、チーターの遺伝子を持つ半獣人の父と、人間の男性オメガの母の間に生まれた一卵性双生児の男の子は、見た目からして俺の遺伝子が濃く、ネコ科顔のヤンチャ盛りだ。
お友達の家にお泊りなんて、まだ早かったのか。未知の環境に触れた双子の息子たちは、帰宅するなり俺たちを質問責めにした。
聞かれて困ることはないのだけれど、問われ続けると、ウチは《普通》とは違うという事実を頭から浴びせられるようで、親としては緊張が解けなかった。
ふたりが寝静まったのを確認して子供部屋のドアを閉める。今、ようやく大人だけで会話が出来る時間が訪れた。
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