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第9話

いつ振りだろうか、中学三年のあの時。俺はこの暖かい空間にいることができていたんだな、と思うと少し寂しく感じる。自ら離れたはずなのに後悔するなんてどうかしてる。 「ヒロ、いいんだよ。戻ってきて」 いつの間にか、後ろにいたカオルさんに気づいて目元を隠すように少し俯く。 「でも、俺副会長だし…、」 あぁ、情けない理由だな…俺の口からでてくるのはなんとも頼りない言葉。 「なーに言ってんだよ!ヒロ!!」 「そうだぜ?関係ねえだろ?」……うるせえハゲ 「いつものお前なら、上手くやるだろ!」………当たり前だっつーの、 「お前いないと寂しいしな!」…………あぁ、そうだな俺も寂しい。 「おかえり、ヒロ」 いつのまにかユキさんが目の前にいて大きくて分厚い掌で俺の頭をグシャグシャにする。 「ヒロは俺のこと好きすぎることに自分でやっと気づいてビックリしちゃっただけだもんね?」 と、かなり意地悪そうに、でも優しい声音で言うカオルさん。俺は耳まで真っ赤にして精一杯否定するしかなかった。 「それこそ今更だよなー」と誰かが言い始めれば、みんな下手に騒がず「なにを今更」というような態度で余計に俺は顔を赤くすることしかできなかった。 ……………え、なにこれなんのプレイ?羞恥プレイかよ………!クソ、みんなに普通にバレてたんか…!! 「ふふ、ヒロは馬鹿だなあ…」 と、その綺麗な顔に言われてしまえば、俺はもうなす術なく降参するしかなかった。 *** 俺の携帯のディスプレイには新たな連絡先が追加される。 『夜識 薫』 思わずにまにましてしまい、さすが自分で気づきポーカーフェイス(王子様キャラ)をする。 一部始終を見ていた奴にからかわれてしまった。 「ヒロ、お前www」 「うるせぇぞ!!!!ヤマダ!!!」 コイツは昔から俺の側によくいた奴で存在感がないというか、陰が薄いせいで気付けばとなりにいるのだ。 …………コイツの目はまるで蛇のようだ。 「それにしてもお前あーんなところに隠れてやがったとはな?」 「うるせえよ、俺だって副会長になるなんて思ってなかったわ」 「まさかあの、美しく寡黙で誰にも堕ちない『氷の王子様』がお前だったとはな?」 親衛隊を結成する際に秀から一般生徒からの俺のイメージを軽く聞いてはいたがそんなことになっていたとは……。 「…………俺そんなこと言われてんの?」 恥ずかしくなり、俺は息絶え絶えになりながらもヤマダに質問する。 「はあ?お前知らんの?」 「軽くは聞いてるけど……喋り方とか表情以外まんま俺だし……」 「そんなんでよく全校生徒を騙してるのな」 とケタケタ笑うヤマダに若干の殺意を抱きながらも、恐ろしくなりさらに質問をする。 「ちなみに……他に噂あったりすんの?」 「えー?俺そんな詳しくは知らないけど、比呂様の眠りつく姿は童話の中にでてくる白雪姫のよう、とか?」 「……………俺の顔の造形の問題じゃねえか……」 「ハハッ、造形て!まあこの学園で重視されるのなんて顔と家柄くらいだろ」 「………そうでした」 「ま、一年間隠れきったのは褒めてやるよ?」 その言い方になんとなく含みを感じ、疑惑の目を向ける。 「………お前、俺のこと知ってたな?」 「さあて、それはどうかね?」 コイツは昔から陰が薄いが、策士だ。

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