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第15話
どうやら、俺は寝かされていたらしい。というのも、昨日の記憶がほぼ無いか、できた書類や警備の配置等々は風紀に届けてくれたみたいだし、本当に不甲斐ない…。
俺は永束からこっ酷く怒られ、月乃からも怒られ、花沢にすら呆れられ、原先輩には慰められた。
俺達役員は自分の出演項目以外、警備に当たる。
永束が本部に篭り無線を使って指示が出される。
花沢は一年だし、どちらかというと襲われる人種なので、風紀とペアを組んである。
風紀との綿密な打ち合わせは既に済んでいて、かなり穴のない警備になっている。
俺としてはなんとしても被害は出したくない。
俺は晴れ渡った真っ青な空を睨みつけた。
***
時は遡り、体育祭二週間前ーー
2年AクラスのLHRは賑わいを見せていた。
体育祭の種目決め、前の黒板に大きく書かれた文字。
その横には箇条書きで、リレーや玉入れ、騎馬戦などの種目が書いており、借り物競走の上には花丸が大きく描かれていた。
これは一般生徒達が自分の推しを如何に目玉種目に出させるか、謎の争いなのである。
先に言っておくと、この2年Aクラス。かなりの変人の集まりである。
「比呂は絶対借り物競走!」
借り物競走とは、この体育祭一番の目玉種目であり、その借り物のレベルが異次元なのである。
「好きな人」はまだいい方で、あらぬ方向に飛び火するのがこの借り物競走。別名、黒歴史晒し。
そして、このクラス。全員比呂が推しだった。
しかし、だ。何故推しにそんな黒歴史を晒させようとする?推しの秘密を知りたい。推しが恥ずかしがっている顔が見たい。それは推しを本当の意味で愛しているのか?そんな議論が今繰り広げられている。
………………心底どうでもいい。
当の本人は蚊帳の外で、やんややんや騒いでいるクラスメイトを虫ケラのように見つめいている。
(…………その前に、クラス全員俺が推しという点について誰か突っ込んでくれ)
何故誰も突っ込む人間がいないのだ。オイ、そこの俺の親衛隊隊長よ。傍観せずにこの暴挙を止めろ。
そもそも何人か面白がって推しだとか言っているのは明らかなのである。何故この副会長サマがコイツらのオモチャにならねばならぬのだ。
ーーーそう、慢性的なツッコミ不足なのである。
一つ言わせてもらうと、このクラス確かに自身の親衛隊に入るかわいい系の子は数名いる。だが、ほとんどがかわいいというワードからは程遠い存在ばかりの連中だ。
や め て く れ
比呂の心境としてはこんなところだろうか。
この時ばかりは、比呂は本気で体育祭の中止を願ったのである。
***
そんなこともあったなあ、と遠い目をする比呂にクラスメイトが声を掛けてくる。
「比呂~、借り物競争楽しみにしてっからな~」
ニヤニヤしながら、応援しているのか馬鹿にしているのかわからないこの男は一年の時から席が隣で常にいらぬちょっかいをかけてくる腐れ縁だ。
「………美作、私が変なカードをひいて恥をかいたら、貴方の家の和菓子を献上することですね」
「へいへい、別に俺ん家のおはぎをお前に食わせようがなんだろうが、俺はお前が恥ずかしがってる姿が見れればそれでいいわ」
あ、これは馬鹿にされてるな。絶対おはぎ持って来させよう。
美作(ミマサカ)というこの男の実家は、かの有名な由緒ある和菓子屋だ。勿論リピートさせてもらっている。
冷たい目を返すと、美作はさらに面白いものを見るかのように笑ってくる。
「クラスメイトの為に気張れよ、な?Aクラスの推しメン!!」
なんだ推しメンって、殺すぞ、そんな気持ちが伝わったのか美作は「おー怖い怖い」なんて言いながら去って行った。…………絶対どら焼きも持って来させよう。
『おぉーーーっと、ここで今回初参加!!Fクラスの黒谷雪路がトップだぁぁぁ!!』
リレーの最中、放送部の熱いアナウンスと歓声によりグラウンドに目を向けるとユキさんが走っている。カッコいいなあ、やっぱり。
…………薫さん、でないのかな。探してしまうのは最早癖なのでしょうがない。Fクラスのトップ二人組はやはり人気なようで、歓声が物凄い。
いや、今は警備に集中しなければならない。
無線で入ってきた永束からの指示に耳を傾けて俺は仕事に集中することにした。
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