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第30話

「あ、そうだ。比呂、風紀の野郎がお前のこと呼んでたぞ」 永束がそう言いだしたのは、お昼過ぎ。いつ頃行けばいいですか、と聞けば永束はバツが悪そうに「13時」と答えやがった。 時計はすでに、1の数字を単身が指していた。永束は申し訳なさそうな顔をしており、それを責める気にはならないが、足を踏んでおいた。 「比呂ッ…、おっま… …大体予想はつくが、今回の文化祭の件について文句が言いたいだけだろう…」 「そうでしょうね、あの陰険風紀ならそうでしょう。そもそも、私じゃなくて永束を呼べば良いのに…」 そう言うと、永束は実に嫌そうに顔をしかめた。そんな顔をするなよ、行くのは俺だ。 「あの風紀いいんちょー、実槻のこと好きだよねぇ」 パソコンを叩きながら、月乃が視線だけこちらに向けてニヤニヤしている。俺が、じろりと月乃を見ると、怖い怖い、と肩を竦めて目の前の画面に視線を戻して集中し始めた。…自由な奴め。 心配そうに見つめる原先輩と興味なさそうな花沢を見て、俺は一度深いため息をつき「じゃあ行ってきます」と生徒会室を出る。 *** 「文化祭が、合同になるという件について君はどういう風に思っているんだい?」 厭味ったらしい言い方をする飯田 海斗という男。黒髪の制服の第一ボタンまでしっかり留めたている。生徒の鏡とも言えるこの男を目の前にして、俺は早く生徒会室に帰りたいと切実に思った。 「…こちらも急な変更に、戸惑いつつも迅速に対応しています。」 「そもそも、あの使えない理事長が発案なんだろう?君たちがあの暴走を止めれば良かったじゃないか。」 できるか、ボケカス!! そもそも、なぜこちらが文句を言われなければならないのだ。よく勘違いされるが、生徒会だからと言って、好き勝手できるわけではない。こうして理事長というクソにパシられ、教師らが本来ならやるような仕事をし、他の委員会から文句を言われればそれに対応する。 この男、普段は真面目で柔和なようで周りの生徒から好かれているようで、嫌でも俺の耳にも入ってくる。その癖、こうして一対一で面と向かって接すると嫌味ばかりの嫌な男だ。しかも、生徒会への要望という名の文句は全て俺に言うのだ。 「合同文化祭なんて、なにが起きるかわからないだろう。生徒の安全面についてどう考えてるんだ?」 「安全面については、あなた方の管轄でしょう。勿論こちらも協力いたしますが。こちらにのみ意見を求めるのは、いかがなものでしょうか」 永束だって、腹の立つ理事長を丸め込む機会を虎視眈々と狙ってるし、他の生徒会役員だって今も仕事をひたすらにしているというのに、なぜこんな風に馬鹿にされなくてはならないのだ。 さすがに腹が立ってきて、冷たく返すと飯田は少し驚いたような顔を見せる。 「それは、失礼したよ。君は、そういう顔もできるんだね」 そう言われ、更に頭にきてもういいから帰らせてくれ、と思う。そもそも何故俺なんだ。 「君は、この学園の本質を理解していないようだ。」 イライラが最高潮に達して、被っている皮がはがれそうになる。しかし、部屋に入ってきた者により、俺の怒りによる勢いもしぼんでしまった。 「あれ、副会長サマではないですか?こんなところで、暇を潰していていいんですか? 貴方の親衛隊の隊長が、貴方のこと探していましたよ。」 嘲笑を浮かべ、こちらに「早よ出ていけ」と言わんばかりに、言い放ったヤマダに俺は「ええ、こちらも忙しいので失礼します」と逃げるように、風紀室からでた。 危なかった、ヤマダが来ていなかったら俺はブチ切れていた。多分、アイツは助けてくれたのだろう。これは予想ではあるが、あながち間違ってはいないはずだ。

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