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第31話

廊下にでて、携帯を確認すると鬼から『お前どこにいるんだ』と連絡が入っている。恐ろしや。 「今風紀委員室でた、と」 手早くメッセージアプリを起動して打ち込んでいく。この感じだとかなりご立腹らしい。 最近は長期休みが明けてからどうやら親衛隊の動きが悪い方向に活発らしく、随分と俺に対する親衛隊の護衛が盛んになっている。 別に俺への護衛なんていらないのだけれど、それを言うと怒られるために、あからさまなものはやめてくれと頼んだのだ。 しかし、逆にこそこそとされるとどうも撒いてしまうので、最近はその日護衛をする生徒の顔と名前を教えてもらうようにしている。 今日は、その報告がなかったためにどうやら撒いてしまったようだ。 きっと、この鬼の親衛隊長がお怒りなのはそれが理由だろう。世の中には怒っても怖くない人間と、怒ると怖い人間と、絶対に怒らせてはいけない人間に分類されるが、あの鬼は、絶対怒らせてはいけない部類だ。ちょーこわい。 アイフォンの画面に通知が来る。『そこで待っとけ』ひぃ、ちょいおこじゃねえか。 大人しくここで待っていればいいのか…?すると、タタッと駆け寄ってくる小柄で栗毛の生徒と身長の高いブスくれた生徒が近づいてきた。 「遅れました!比呂様…!僕、一年の梨野(なしの)と申します!本日はご報告もせず、護衛について挙句責務を果たせずに申し訳ありません!」 「…っス、濱地(はまじ)っス」 どうやら今日の護衛は彼らだったようで、一年生に悪いことをしたなと申し訳なくなる。もしかしたら、親衛隊長兼元ルームメイトの秀は俺の罪悪感を利用して、しっかり守られろ、ということを伝えたいのかもしれない。 この可愛らしい生徒は、梨野というようだ。小柄でぱっちりと開かれた目でこちらを見つめてくるのは男には見えない。上目遣いでこちらを見てくるのも、些か満更でもないというか…ゲフンゲフン、小さいのに護衛をしてくれるのか…増々かわいい弟ができたようだな もう一人の護衛、俺よりもデカい身長を背中を丸めて立つ濱地。ちょっと反抗的な目を見ていると近所にいたデカい犬みたいだ。思わず濱地の頭に手をのばしてビクッとする濱地に愛おしさを感じながら頭を撫でる。ちょっと短めで硬めの髪質が増々犬みたいだ。 「…そろそろやめてほしいっス…」 気付けば容赦なくわしゃわしゃしていたのであろう。ちょっとぼさついた髪を直してやると、ちょっと嬉しそうにする。かわいい。 「比呂様、親衛隊にそのようなことをされては、他の隊員に示しが付きません!」 大き目な目を潤ませてこちらを見る梨野に、俺はちょこっと申し訳なくなる。そうだよな、親衛隊ってなにかと大変だし、俺も気を付けないと。イマイチ親衛隊という組織からの好意に鈍くなってしまうのだ。 「申し訳ありません、近所のわんちゃんに似ていたもので…」 申し訳なさそうに笑うと、梨野は口元を抑えて「わんちゃんて…」と呟いている。その様子を濱地は呆れたような目で見つめていた。 …男子高校生がわんちゃんは変だったか…?俺は赤くなりそうな顔を引っ込めて、爽やさを意識して笑う。 「先ほどは失礼いたしました。私はこそこそとされてしまうと撒いてしまうんです。今度は一緒に生徒会室に行きましょう」 「はい!」「…っス」 揃って返事をする様子はまるで小型犬と大型犬だな、なんて思ったのは内緒だ。 「そういえば、隊長が「親衛隊の会議に参加してください、比呂様」と言っていました!」 元気良く言う梨野に、内心口元が引きつった。 …あの野郎、梨野に言わせることで俺が「行く」と言わざるを得ないとわかってやがるな…俺が、かわいらしい弟分に弱いということを知っているのだ。「比呂様」なんていうところがわざとらしい。 「…もちろん。行かせてほしいです。…近い予定はいつでしょうか」 こうなったら早めに終わらせてしまった方が良い。 「本日17:30からです!」 あのクソ鬼…

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