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第32話

「…どういうことでしょうか、隊長殿」 『おや、俺を隊長殿なんて呼ぶのは珍しいですね、比呂様?』 電話口で明らかに煽ってくる秀に、思わず舌打ちしそうになる。一度、一年生の親衛隊隊員だという二人に生徒会室まで送り届けてもらい、そのまま生徒会室には入らず俺の秘密基地である中庭まで行き、電話帳の一番上にある人物に電話を掛けた。 『今舌打ちしそうになりましたね、それほど心に余裕がないのでしょうか』 「…舌打ちなんてしませんが」 そうですか、なんて白々しく返答してくる元ルームメイトに腹が立つ。 『お前にしちゃちょっと切羽詰まった声だな、比呂。いい加減こちらに信頼を置け、と言っているのがわからないか』 「…信頼ならすでにしている。」 信頼、という言葉に思わず眉間に皺が寄る。信頼ってなんだ、俺には… 『いいから、今日の会議は来い。多目的ホールの第二部屋だ。いいな?』 そう言ってブチ切った鬼に、舌打ちをする。 多目的ホールとは、この学園でもかなり大きな教室だ。つまり、俺の親衛隊全員集まるということだろうか。それを考えるだけで、胃が痛い。どうにも親衛隊というものには、偏見が向いてしまう。 俺にだって仕事があるというのに、いいな?と聞いたあの台詞には実質疑問の意味は含まれていない。断定だ。でも、秀は俺が仕事を理由に行けないと、プライドが邪魔して言えないということを知っているのだ。 俺は、右手に持っていた安い缶コーヒーを思いっきり飲み干すと片手で潰して、愚痴ごとごみ箱に捨てた。 *** 多目的ホール、第二部屋。 一度息を吐き、深く吸う。扉に手を掛け軽い音を立てると、こちらを一斉に見る生徒たち。 かなりの人数に、何故こんなにこの親衛隊は規模が大きいのだ…と頭痛が痛い、って奴だ、と一人バカなことを考える。 一人一人の顔を見ていく、…あれ、 「なんで、クラスメイトの皆さんがこんなに…」 にやにやとした表情の奴等がいるな、と思えばどうやら俺をよくおもちゃにする奴等の顔がちらほら。ちらり、と秀の方を見遣ると肩を竦めて苦笑いする。 「…一応言っておきますが、この隊の入隊審査は他の隊より厳しいですよ?」 つまり、わざわざこの厳しい鬼の審査を突破してまで入隊しているということ。 すると小柄な生徒がガタリ、と音を立てて椅子から立ち上がる。 「比呂様をお守りするための会議なんだから、ちょっとでもふざけたら僕が直接手を下します!」 「はいはい、ヒロサマヒロサマ」 「ちょっと!バカにしてるでしょう!」 「いやいや、俺達ちゃんとアイツ守りたくて入ってるし」 「アイツじゃなくて、ヒロサマ!」 ごつい奴らと、かわいらしい生徒が喧嘩をしている。なんだ、この親衛隊は…彼らが活動する姿をしっかり見たことは無かった。彼らは俺を見つめるだけではなく、周りの人間と親密に話し合いを進めていた。 「なにその筆箱のキャラクター!ぶっさいくじゃない!」 「は!?これは関係ないだろ!?」 いがみ合う彼らの様子を、周りは面白そうに見つめていたり、笑っていたり、俺の知っている親衛隊とは程遠い。 「…ふふ、ハハハッ」 思わず、なんだか全てがバカらしくなってきて笑い始めると、不思議そうな目が一斉に俺に集まった。たまには、こうやって笑ったていいだろう? 「野田、確かにそのキャラクターはダサいですね」 「…おま、俺の名前…」 「何言ってるんですか、あなたはクラスメイト。その前にこの学園の生徒でしょう、名前くらい覚えてますよ」 学園の生徒全員の名前おぼえてんのかよ…とぼやくクラスメイトから小柄な生徒に視線を移す。 「あなたは…三年の金田先輩でしたよね、後輩への指導ありがとうございます。」 「い、いえ…比呂様…僕のことは苗字で呼び捨てにしていただいて構わないのですが…」 「いえ、貴方は私の先輩なので、そういうわけにはいきません。 …それと、確かにそのキャラクターはダサいですが、彼が好きな物なようなので、あまり貶さないであげてくださいね」 もう一度秀の方を見ると、秀は安心したような、複雑な表情を浮かべていた。どんな顔だそれ。これでいいだろう、と目で訴えてやると、一つ溜息を付いた秀はコクリ、と頷く。 「では、親衛対象である比呂様にお越しいただいたので有意義な時間にしましょう」

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