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第33話

「お前が親衛隊のとこに顔を出すなんて、珍しいこともあるもんだな」 生徒会室で沈んでいると、永束が俺の頭に手をポン、と置いて冷たい缶コーヒーを渡して来る。 「ありがとうございます…」 「最近自分で淹れないで、そのメーカーばっかり飲んでるよな」 よく見てるな、永束は。と思いつつ缶コーヒーの蓋を開ける。このメーカーにはキャラクターの置物とかストラップがついてくるらしいので、クラスメイトである野田に頼まれて買っていたのだ。アイツ、俺が名前も覚えていないクラスメイトの頼みを聞くとでも思っているのだろうか。 「で?…親衛隊はどうだったんだ?集団レイプでもされたか?」 ブハッと、飲んでいるコーヒーを吐き出してしまった。口に含んだのが少量で良かった。 きったねえな、おい、と眉間に皺を寄せて言う永束にこの中身を入ったコーヒーを投げつけてやろうか迷う。 「…んなことされていません。ただ…」 「ただ?」 「今年の文化祭では、春浪学園と合同でやることになっています。そうですよね?」 隊長殿にヒロサマ?と聞かれれば、「はい」と答える。わざとらしい応酬に、爽やかな笑みも引っ込みそうになる。 「そこで、それに対する反感により生徒会の皆様の身の危険が及ぶと考えられます。そこで、比呂親衛隊は一丸となって、護衛に当たります。」 「はいはーい」 真剣に聞いている空気に、爽やかな声が響いた。俺のクラスメイトの及川だ。小柄で親衛隊という活動に対して真面目な生徒たちから鋭い視線が飛んだ。 「護衛するのに、ご褒美とか欲しいな~比呂から!」 「ちょっと!親衛隊は奉仕の精神でやっていることなの!比呂様を困らせるようなことを言わないで!」 「そうは言ってもよ~、本当はほしんじゃないですか?ヒロサマからの、ゴ・ホ・ウ・ビ[V:9825]」 ゴクリ、と喉を鳴らした一同に、俺は爽やかな表情を保つ余裕は無く、頬の筋肉が引きつった。ちょっと、してほしいかも…なんて声が聞こえた気がするのは、幻聴だと願わせてくれ。 「ほ、ほしいけど!!親衛隊っていうものは、見返りを求めちゃいけないから…!」 顔を真っ赤にしって訴える三年の親衛隊隊員。俺は、素に半分戻りかけていたスイッチを切り替えて、再度副会長として、この場に立つ。 「…及川、分かりました。なにがご要望かはわかりませんが、私の答えられる範囲でしたら答えましょう。」 「比呂様…!」 今まで伝統としてこの親衛隊に所属してきた側からすれば、本意ではないのかもしれない。訴えるような目が痛かった。それでも、彼らの働きに答えなくては男が廃る。 「先輩、今までの親衛隊は親衛対象には見返りを求めるな、抜け駆けするなというのが暗黙の了解になっていたと思います。そうですよね?」 「…はい、そうです…」 「それで、親衛隊による事件が減ったでしょうか、無理矢理抑えられた欲望はいつか必ず爆発する。…俺は、貴方方を無意識に見ないようにしていたのかもしれません、そう責めていただいて構いません。」 そう言い切った俺に、隊員たちの顔が固まった。まるで、そんなことないのに、とでも言いたい表情だ。それを見て、あったかい人達だったんだなと改めて反省する。 「優しい貴方たちに甘えたようです、今まで我慢を強いられた中でも活動してくれてありがとうございました。 …どうでしょうか、俺のご褒美、もらっていただけますか?」 「自分で言い出したのか…」という白い目を永束から向けられる。もううなだれるしかなかった。 「…それで、結局働きにポイントを付けて、一位の方になんでもしてあげるということになりまして…」 「おいおい、なんでもするって…」 「あ、いやそこは拒否ができるですけど…」 そういうことじゃないだろ…と今度は永束がうなだれる。しょうがないじゃないか…言い出しちゃったんだから… 「そもそも、お前への貢献度と言えば俺の方がダントツで上だろう。俺にはなんでもしてもらえる券はもらえないのか?」 「永束に渡したところで、どうせ雑用でしょう。絶対嫌ですよ」 「雑用じゃないとしたら?」 永束の目に一瞬色が入ったのは気のせいだろうか。俺は、真顔のままこちらを見つめる永束を見つめ返す。 「…あなたは私の親衛隊じゃないので、無理です。」 そう言うと、永束は舌打ちをしてパソコンに顔を向ける。 でも、美味しい缶コーヒーくらい買ってきてあげますよ、と言ったら、缶コーヒーよかお前が淹れてくれ、としばらくの間と共に帰ってきた。

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