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第6話

 温かい春の昼下がり。  郊外の広い庭を、黒ウサギの子どもが二匹、ボールを追い回して跳ねまわっている。まだ幼いので、半獣化できないのだ。その様子を、エディとダニエルは少し離れたところでガーデンチェアに座って見ている。  エディが立ち上がろうとするのを、ダニエルが制する。 「何が欲しいんだ? お茶のお代わり? ケーキ?」  もともと優しかったが、番になってから、ダニエルは磨きがかかって優しい。というか、過保護だ。 エディは苦笑いしながら、 「お茶が欲しかったんだけど。あのね。少しくらいは動かないとむしろだめなんだよ?」 「運動するなら安全なところですればいい。 お茶が手にかかってやけどしたらどうするんだ? 皿を落として破片で怪我したら? 施設でも他の人がこういうことしてたんだろ。だったら今俺がするのは当然だ」  甲斐甲斐しくティーカップにお茶を注ぎ、エディ好みにミルクと砂糖を入れて、スプーンでかき混ぜてくれる。自分はそんなにドジではないのに、と苦笑してしまう。  ついでに空になっていた皿に、フルーツのたっぷり入ったパウンドケーキを載せてくれる。 「体調は変化ないか?」 「うん。大丈夫だよ。心配しすぎじゃない?」  隣に座ったダニエルが、大きいおなかを撫でる。もうすぐ、次の子が産まれるのだ。医者からは恐らくエディに似て人間だろうと言われている。   婚約解消を申し出ると、アンジブースト伯爵はあっさり了承してくれた。 もっとも婚約を申し込まれた時点で、エディは『好きな人がいる』と言っていたのだ。『婚約すればダニエルがなびくのではないか』と提案したのは伯爵のほうらしい。まんまと策にはまったようで、ダニエルは複雑な心境になったという。 返そうとした指輪は、「結婚祝いに」とそのままくれた。 「心配するだろ、そりゃ。大事な番なんだから」  そう優しく言って、ダニエルは唇を落としてきた。 二人はアルファとオメガではない。だから運命の番ではない。 それでもずっと慕ってきたダニエルが、エディを受け入れてくれた。彼のためにすべてを手放す覚悟を見せてくれた。その時、本当に嬉しくて夢を見ているのではないか、と思った。今でもたまに自分は長い幸せな夢を見ているのではと不安に思う。 ベータとオメガだが、ダニエルとエディは結ばれた。それは運命だった、そう思いたいのだ。

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