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第5話

 一度だけ。  エディはそう言っていたし、ダニエルもそう思っていた。  だから気持ちを打ち明けなかった。  だが。いざ抱いてしまったのなら、エディを諦めることなどもはやできそうになかった。エディのいない人生なんて、死んでいるのと変わらないと思った。  エディのために彼を諦める、そう思っていたのに。  ダニエルは覚悟を決めた。  もし、エディがアルファよりも、ベータのダニエルを選んでくれたのなら。どちらが幸せになれるかなど、明白であったとしても望んでくれるのなら。  エディを番にする。 他の何を犠牲にしても、この先に絶望しかないのだとしても、もうエディを離さない。  ダニエルはエディを抱き寄せて、頭を撫でた。気持ちがよさそうに、エディは目を細める。   「エディ、俺はお前が好きだ。ずっと、番にしたいと思ってた」  ゆったりとした口調で言うと、エディは信じられないというように、もともと大きな目を一層大きく見開いた。 「アルファの貴族様のほうがいい暮らしさせてくれるだろう。新しい指輪を贈りたいけど、俺には伯爵が渡したようないいものは渡せない。 それでも俺を選んで。俺の子を産んで。お前が俺を選んでくれるなら、俺は他の全てを手放してもかまわない」 「僕は……贅沢な暮らしがしたいわけじゃない。ただ、あなたと生きていきたいだけ。僕で、いいの?」  目が潤んで、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。 「なんだよ。さんざん求婚しておいて。返事は?」  エディが泣き笑いのような顔をした。 「……僕の答えなんか、あなたは初めから知ってるでしょう」  大きな目から零れ落ちた涙を、指先でぬぐった。  世界中の、どの宝石よりも美しい。そう思った。

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