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第1話
エレオノール家は実質この国を仕切っていると言っても過言ではない。
希少な狼の獣人で、権力・家柄共に申し分ない。
宰相や武官を多く出し、何人かの女性は皇室に嫁いでいる。
そんな圧倒的な家と、お近づきになりたいと思うのはまぁ当然のことで。
その家の長男シャルル様が生まれたとき、どの家がこの人の結婚相手を持てるのか、貴族は必死だったらしい。
僕は、その為だけに産まれ、育てられた。
「レナ様、お食事をお持ち致しました」
「ありがとう、ミシェル」
僕に仕えてくれているのは彼一人だけ。
家庭教師はもう卒業したから、僕は結婚まで彼以外の人と会うことは無い。
ミシェルは僕の事をただの仕える相手としか思っていないだろうけど、僕は父のように兄のように思っている。
一人で食べる食事は、なんだか味気ない。
ミシェルが完璧に作ってくれたのに、美味しいと無邪気に喜ぶことはしてはいけないし。
ただ教え込まれたテーブルマナーに従って、黙々と手と口を動かすだけだ。
最後のカトラリーを手から離す。
そっと揃えて置くと、ミシェルが紅茶をいれにきてくれた。
「ミシェルは僕が結婚しても着いてきてくれるんだよね?」
「レナ様が、それをお望みならば。私はどこへでも着いていきますよ」
ほんの少しナーバスになっているのは、今日の昼間、結婚式の日付を知らされたから。
結婚することは知っていたけれど、日付を知ったことで一気に現実感が増した。
嫌な訳では無い。
彼のことはむしろ好きだし、結婚できることが嬉しいとも思っている。
初めて出会ったパーティーで、人酔いしてしまった僕を助けてくれた彼に一目惚れしたから。
ただ、少しだけ不安があるだけ。
ずっとミシェルと二人だけで暮らしてきた僕が、立派な妻になんてなれるだろうか。
「レナ様、ご不安なら私に…」
「僕なら大丈夫!何も心配しないで。頑張るから」
そう言って微笑みを浮かべると、さっきまでの不安がまたちょっと、濃さを増したように思えた。
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