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忍び恋
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鋭い刃が空を裂き、目にも止まらぬ速さでやって来る。標的を失った矢は足下の藺草:(いぐさ)に突き刺さる。
「ありがとう、蒼 。助かったよ」
薄い唇に微笑を漏らすその人は、本当に命を狙われたという自覚があるのだろうか。
彼は相変わらずのんびりしている。
彼の名は九 琥珀 。二十二歳で九家の次男として生を受け、初陣は十六の時に終えている。長男の真旦 様はご聡明な方で、民からも慕われている。そういうこともあってか、琥珀様はおおらかな性格をされている。
おおらか、と言うと聞こえは良いが、彼はかなりおっとりしていて、こうして敵に狙われても微笑を浮かべるほどだ。
俺は忍頭として、この城の主、琥珀様をお守りしている。
いくら俺の腕が良いからと言って、危機感も持たずにいられては守るものも守られなくなってしまう。
だから俺は、すっかり決まり文句になってしまった言葉を口にする。
「貴方は、もう少しご自身の命を重んじるべきです!」
「君が守ってくれているでしょう?」
「私でも守りきれない時もあるかもしれません!」
「そうかな?」
「そうです!!」
何度も言うが、主は次男で、御当主様が本殿におられる。おかげで彼には緊張感というものも危機感というものも持っていない。
常にこんな調子だから困る。
だが、一番困るのは、俺自身だ。
こうして琥珀様に微笑みかけられれば胸が高鳴り、呼吸が荒くなる。
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