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太陽の刺客③
「アキーク?」
突然、アキークの両耳が後ろを向いた。
「ナキ、伏せてろ」
「え?」
アキークが上から覆い被さり、何かから僕を守ろうとした。彼越しにその何かがモタカーメル号の前に飛んで行くのが見えた。赤い炎を纏った砲弾だった。
海に落ちた砲弾が激しい水飛沫をあげ、僕らは全身に冷たい水を被った。
「キャプテン!何事っすか?」
「赤い炎、ついにアルシャムスが来たか」
アキークが立ち上がったところに音を聞きつけたシャラールさんが走って来た。
「シャラール、帆を張るぞ」
そう言って、アキークが魔石をシャラールさんに手渡す。彼自身は舵を取って敵からの砲撃を少しでも避けようとしているようだ。後ろで帆の開く音がした。
「キャプテン!マストの一つが凍結していて帆が開かないっす!」
「こんな時にか、平和ボケしてたな。シャラール!直ぐに氷を溶かせ!」
言われて見上げてみると、確かに後ろ側の帆が開いていなかった。アルシャムス側の船はこちらの後ろにつき、甲板に設置した大砲でこちらを狙っているようだ。不規則に砲弾が飛んでくる。
そして、ついに砲弾の一つがモタカーメルの右側面ギリギリに落ちた。
「僕に考えがあります」
「なんだ?錨は使えないぞ?まだ新しいのを付けてないからな」
「いいえ、違います。敵の狙いは僕です。僕が船尾に立てば、向こうはこの船を攻撃出来ないはずです。どんな船も帆を張ったこの船には追いつけないんですよね?帆が開くまで時間稼ぎをします」
「そんな危険なこと、させられるか」
「大丈夫です」
僕はアキークの言葉を無視して、走って船尾に向かった。向こうの船から見える場所に立って両手を大きく振る。
「どうして……?」
僕が船尾に立てば攻撃が止まる、そう思っていたのに攻撃は一向に止まらず、砲弾の一つが左側面を削り、木片が飛び散った。その様子がスローモーションに見えて、その向こう側にアキークの顔が見えた。
「ナキ、こっちに来い!」
アキークが僕を呼んでいる。でも、僕はこの船を守らなければならない、二人に迷惑を掛けてしまったから、自分の気持ちに気付いてしまったから。
────ああ……、やっぱり好きだ……。
「……ッ」
砲弾が装填のために止んだ隙を見計らって、僕は海に飛び込んだ。
「ナキ!」
アキークの声が耳に残る。冷たい海に着水すると、全ての音が小さくなって聞こえた。ボヤけた視界、どちらが上か下か分からない。でも、これで二人は助かる。 敵は次にどう出るべきか、混乱しているはずだ。その間に帆が開いて、モタカーメルは必ず逃げ切る。
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