18 / 30

太陽の刺客④

「……?」  何の音もしなかった。でも、誰かが僕の腕を掴み一緒に浮上して行く。そんな感覚がした。 「キャプテン!帆が開きました!」  シャラールさんの声だ。肺に急に大量の空気が入ってきて、僕は激しく噎せた。 「そのまま全速前進!」  氷の浮いた海の中で僕の身体を引き寄せ、アキークが叫んだ。反対側の腕にロープを巻いている。そのロープの先端は船の上にあって、何故か魔石と同じ色の光を放っていた。 「ナキ、飛ぶからな」  アキークにそう言われた気がするけれど、僕はもう声が出せなくなっていた。寒さで身体が凍ってしまったみたいに動かない。  何がどうなったのか、気が付いた時には僕はアキークに抱えられて甲板に居た。  僕は助かろうと思っていなかった、なのに、また二人に迷惑を掛けてしまった。 「キャプテン、大丈夫っすか?こっちは魔石の力で氷削りながら順調に加速してるっす。船体で氷削る向こうは追いつけないっすよ。魔石はキャプテンが持っていてくださいっす」 「ああ。シャラール、よくやった。この距離じゃ砲弾も届かないだろう」 「うっす!……ナキさんは?」 「これから温める。シャラール、暫く頼んだぞ?」 「うっす!」  二人の会話が、ぼんやりと聞こえた。部屋の扉が開いて閉じる音も。 「急激に温めると逆にショックで心臓が止まっちまう……」  まるで自分に言い聞かせるようにアキークが小さく呟いた。 「ナキ、服脱がすぞ?」  冷たい衣服が取り払われていく感覚。そして、暖かな温もりが僕を包んだ。  ────温かい……。  閉じていた目を薄く開くと、服を脱ぎ捨てたアキークが僕を抱き締めているのが見えた。あの時もこうやって僕を温めてくれたのだと気付く。 「……アキ……ク……」  まだ唇が震えて上手く言葉が発せられない。 「なんて無茶をしやがる!」 「……き、に……な……った、から」 「なんだ?」 「……あ、なた……を……好き、に……なって……しま、った……から」  あなたを守りたかった。でも、予知出来なかった。 「ナキ……」  自分ごと僕を毛布で包み、アキークは暖炉の前に移動した。 「……でも、僕は……あな、たと……つ、がい……には……」  なれない。苦しい。自分の感情に気付いてしまった瞬間、とても苦しくなった。こんなに苦しくなるなら、自分の気持ちに気付きたくなかった。  好きになっても、好きになってくれたとしても僕らは番にはなれない。僕はアルシャムスの王の所有物で一生縛られ続ける。苦しむのは僕だけではない。ほら、もうあなたを苦しめている。 「番になれなくとも、一緒に居れば良いだろうが……!俺も、お前に惚れちまったんだよ……!」  僕を強く抱き締めるアキークの腕が、声音が、苦しいと言っている。 「……アキーク……」 「この魔石をお前に預ける」  自分の首から神秘的に光っているペンダントを外して、アキークは僕の首に掛けた。 「……でも、これ……、一つしか……」 「だからだ。その魔石はこの船の動力源、それが無くなればこの船は動かなくなる。お前が居ないとこの船は動かない。だからそばに居ろ、ナキ」 「でも……」 「もう喋るな」 「ん……」  噛みつかれるようにキスをされた。あんなに弱っていた心臓が煩く僕の胸を内側から叩く。この音はあなたに届いているだろうか……。

ともだちにシェアしよう!