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死の予知夢④

 ◆ ◆ ◆ 「木材と錨が欲しいんだが」  港から少し離れたジメジメとした大きな倉庫の様なところでアキークが店主と話している。店主は薄茶色の毛並みを持つ豹の獣人だ。 「家でも建てるんですか?」 「何言ってんだ、家に錨は要らないだろう?」 「冗談ですよ」 「まあ、俺たちにとっては家に違いないが」  そんな楽しそうな会話を聞きながら、僕は木製の壁に空いた小さな穴から外に出た。たまたま見つけた小柄な僕だから出られる穴だ。ここからなら真っ直ぐに港に向かえる。 『アキーク、少し見てきても良いですか?』 『ああ、別に良いが迷子になるなよ?あと、危ねえから積んである物の下は歩くな。倒れてくるかもしれないからな』 『分かりました』  アキークとそんな会話をしたばかりだ。資材や小さな船、何かのガラクタが詰まった広い倉庫で、僕が居なくなったことにアキークが気が付いたのは僕が港に向かって走り出した時だった。 「ナキ?おい、ナキ!」  アキークが僕を探している。愛しい人が僕を探している。   「ナキ!」  僕の名を呼ぶ声が聞こえる。愛しい人が僕を呼んでいる。本当は「冗談でした」と言って姿を現したかった。そしたら、きっと、あなたは笑ってくれるから。でも、ダメなんだ。胸が締め付けられるけれど、止まってはいけない。  アキークの声は少しずつ遠ざかり最後には聞こえなくなった。  人混みに紛れて港に向かうと船が何隻か停まっていた。乗る船は宿の主人に聞いておいたから、僕は迷わずその船に向かった。地味な灰色の塗装がしてある大きな鉄の輸送船である。  ザイル号というその船は出航間近で甲板へと続く板は外されていた。けれど隣の船の積荷が近くに積んであり、真ん中ほどにある大砲を出す窓から中に入れた。輸送用の船でも海賊に襲われることがあるため大砲はどの船も常備しているのだ。 「……」  中に入ってから荷物の詰まった光の当たらない角に行き、首から掛けている魔石のペンダントをギュッと握って出航を待った。魔石が無ければモタカーメルは動かず、アキークは僕を追って来られない。動かないのならモタカーメルに乗ることもない。これであの夢のようにはならず、アキークの死は回避される。  命を奪われるより海賊としての人生を奪われるほうが、あなたにとって苦しいことかもしれない。でも、あなたが殺されてしまうなんて僕には堪えられない。 「アキーク……」  たとえ離れていても、僕はあなたを想い続ける。あなたが望んでくれるなら。あなたが許してくれるなら。 「ごめんなさい……っ、ごめ……さい……」  船が無事に港を出た後、暫く、僕は積荷の陰に隠れて泣いた。

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