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第1話

  夜も更けた頃だった。ひとりの男が砂の国アフリカに向かう馬車に揺られていた。 御者(ぎょしゃ)とひとりの:従者をともにした彼の名は、ショウビだ。人族の身なりをしているが、鳥人で鳥族()の長である。 鳥人とは、獣人の一環である。獣人というひと括りにされた呼び名の中にも種族というモノがあって、その種族ごとに生態が異なり世界各地に散布されている。例えば、鳥族、獣族、魚族など。そして、生態や分布で能力も異なり、鳥族の大抵は変化(へんげ)に長けていた。 ショウビは鳥族のシュバシコウで、祖国の氷の国ロシアで生業(なりわい)を立てている。 そんなショウビが生息地とは真逆のアフリカに向かっているのは、最近、ウガンダのカンパラ辺りで獣族に属する狼が息巻いているということでだ。獣人の中立族でもある彼に、その戒めというか機嫌取りをしてこいというやたら七面倒な白羽の矢が立ち、手厚い資金の元、風の国スイスの加判(かはん)に無理やり託されてしまったのだ。 いわずとも解ると思うが、その相手は話を聞くような穏和な性格ではなかった。 ショウビとしても早々に氷の国ロシアに帰りたいというのが本音だが、立場上ソレは許されることではなく、渋々といった感じでその狼の元へ向かっているのであった。 「まったく、何でこうも七面倒なことに白羽の矢が向けられるのやら」 呟いたショウビの耳に、御者の尋常ではない悲鳴が飛び込んでくる。 「シ、ショウビ様、アレは………!」 「何事だ!」 物見の窓を開けて様子を窺ったのは、従者のソーカである。人族の女人の身なりだが、彼女も鳥人だ。 人族の御者の指差す方には何やら赤い光が無数にあって、ソーカは色を失った。 銀色の狼が、近づいてくる。背後に控えているモノは配下でもないのに、彼に従っていた。 そして、通常ならば警戒音として遠吠えがされるハズなのに、ソレがなかった。同士討ちということではなさそうだが、嫌な予感しかしなかった。 「チッ、賊めが………!」 ソーカは、まだ走行中の馬車の扉を開いて飛びだす。慌てて、ショウビも開いた扉から顔だけをだした。 馬の悲鳴が轟いた。御者が慌てながらも鞭で馬の尻を叩き手綱を強く引いた。すると、息を吹き替えしたように勢いよく走りだす。 ショウビはその反動で馬車から振り落とされそうになったが、咄嗟に自慢の翼を拡げて地面への落下は間逃れる。馬車の中に飛び込んだために、顔面を思いっきり座席にぶつけた。次いで加速の勢いで、後ろに倒れ込み後頭部も思いっきりぶつけてしまう。凄まじい痛みにのた打ち廻っていたら、馬車が急停止した。 開いた扉から銀色の狼が入ってきた。 ショウビは咄嗟に、ソーカは?と銀色の狼をみると口許が紅く血の色に染まっていた。 茫然となるショウビは、馬の悲痛な声に我に返った。御者の声が聞こえないことに、身体の芯から怯えがくる。 「ショウビ様! 大丈夫ですか!」 ソーカの声が荒野に響く。御者の声も後から聞こえてきて、ショウビは目の前にいる銀色の狼と目を合わせた。  

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