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第13話

  1週間後、発情期を終えたアルは、自室でショウビと対峙(たいじ)していた。 ドヴェルグもソーカもフリードもいない。ジャリードに頼んで、馬車の積み荷を手伝って貰っていたからだ。 「アル様、お世話になりました」 お礼の言葉を聞いていたアルは頷き、真剣な顔でいった。 「いえ、オレこそ盛大な祝いとその資金提供をありがとう御座いました」 出費の殆どをだしてくれたショウビに、アルは頭が上がらない。 ショウビは、自分の懐が薄くなったことを気にかけてくれるアルは優しい子だと涙ぐむ。 何たって、だして当たり前だろう?というフリードとソーカはもう血も涙もなかった。ショウビの懐から財布をぶん取って、取り立てにきた商人に金を支払ったのだ。 鮪の請求書は勿論、祖国の自邸に送られているだろう。金額が金額だ。だとしても、何処まで経費で落とせるか謎だった。 「いえいえ、そんな。アル様があんなにも喜んで下さったら、私もだした甲斐があるというモノです」 お気になさらずにというのだが、本音はまったくそうは思っていなかった。実に厳しい。己の命と天秤をかけたら安いモノだとソーカはいうモノの、やはりタダ働きというモノは腹立たしいモノがあった。 顔を曇らすショウビに、アルはやっぱり申し訳ない気持ちになる。そう、ソレでなくとも、アルは今後、ショウビに多大な迷惑をかけることになるのからだ。 「あの、ショウビ様、ゴメンなさい」 弁解する言葉もみつからないという様子に、ショウビは小さく笑う。 「どうして、アル様が謝るのですか? 貴方は何も悪くはないでしょう?」 「だけど、オレは今後もショウビ様に迷惑をかけることになるし」 指と指を捏ねくり返し、アルはショウビにちらと視線を向ける。 「別に、大したことではないですよ。あの莫迦を殴ることができると思っただけでも本当、生きていた甲斐があったというモノです」 「………………」 アルの険しい顔にショウビは首を傾げる。 「どうされましたか? もしや、好きな獣人と番になったことを後悔されているとか?」 「いえ、ソレはないです。でも、オレは恩を仇で返しているようで………」 ショウビはアルの素直な気持ちに破顔した。 「はっはは、私は兎も角、ドヴェルグはそんなところまで考えてはいませんって」 「そうだと………思いますが、でも、やっぱりオレは………」 アルはどうも煮え切らない。 「心配しなくとも、ちゃんとドヴェルグはお返ししますよ。貴方宛の荷物を頼みにいくだけですから」 「?」 「私の嫁になる人に、アル様の子を届けて欲しいと頼むそうです」 アルは目を剥く。 「だから、ドヴェルグが帰ってきたら赤ちゃんのいろはを教えて上げて下さい」 「ええ、そうします。そんなことをしなくとも大丈夫だ、と」 お互いに笑って、短い沈黙の後、アルはおもむろに口を開く。 「──あの、ショウビ様、あの方を許して上げて下さいね」 奴隷商人のところにくる獣人の中で、アルのことを非常に可愛がってくれた獣人は豪気で、がさつだった。 鮪が大好きな鳥の王様だってこと。 氷の国ロシアにとても大切な人が住んでいるといっていたこと、などなど。 フリードとはまったく似てはいないが、アルはあの獣人のことが大好きだった。 ────悪いな、童。 ワシには好いとるヤツがおる。 高飛車な物いいのクセに、酷く面倒見がよくってな。 素直で真っ直ぐでまったく嘘がつけぬヤツなんじゃよ。 END  

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