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第2話 アサのお話
ここ数週間、船大工である僕の父親は異国から来た船の修理を頼まれていた。
大きな船だ。
この島国で見かける船とは形も色も違う。港に泊まっているこの船を見に町の人が集まるくらい話題となっていた。
「おい、アサ。あの船で宴をやるそうだ。お前も来い。気分転換になるだろう」
父親たちの仕事ぶりに満足をした船長は、大工たちを船に招き、感謝の宴を開くことにしたらしい。
気分が滅入っていたわけではない。
でも、特に心が躍るような日を送っていたわけでもない。僕は冒険を求めていたわけでもないし、いつもの毎日に満足していたわけでもなかった。
だから、少しくらい変わったことをしてもいいんじゃないかって…
これが、僕が宴に参加することとなった理由。
宴の当日、船上は右も左も大柄な異国人であふれていた。
首を掲げて見上げなければいけないくらい背の高い彼らは、空色の瞳に色素の薄い髪色を持つ者が多いようだ。
ここには父親や仲間の大工たちももちろんいたが、彼らに比べればこの島の人間は背が低い。長身の彼らに囲まれては、誰がどこにいるのか分からない状態だった。
波止場に泊められた船は動いてはいないが波につられ小さく揺れる。
意味の分からない言葉が頭上で交わされ、大げさなほどの身振り手振りで笑い合う異国人たちの邪魔をしないように部屋の端から端まで静かに移動すると、僕は自分の足元を見つめた。
帰りたいな。
つまらない。
どう見ても子供が楽しめる集いではない。
お気に入りの着物をパタパタと揺らしても、窓の外を覗いても、見たこともない食べ物をつまんでみても時間は早くすぎない。
慣れない味が染み込んだ口を洗うように水を飲み、異国の装飾で飾られた天井に目をやる。
どのくらい時間がたったか分からないが、これ以上暇つぶしをする方法もないなぁと思いだしたころには、父親がどこにいるのか、どこから船を降りればいいのか、誰に僕の状況を説明すればいいのかもわからなくなっていた。
船の外が真っ暗になり僕があくびをし出したころには、お酒を飲みご機嫌に騒ぎ出した父親も他の大人たちも、僕の存在を忘れてしまったようだ。
「ちょっとなら大丈夫かな」
大人たちの目を盗み僕は、酔いが回り段々と騒がしさを増す船内を探検することにした。
と、そこまでは問題なく進んでいたのだ。
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