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第10話 アサの初体験

 ガチャリ  扉が閉まる音が聞こえ、ニールが部屋を去ったのを確認すると僕は身体を起こした。  身体の下で寝床が軋る音が響いた以外、何も聞こえない。  不思議なほど静かだ。 ――何だったんだろう  もう幼子ではない。  なんで、どうしてと問くことはできても、何が起きたかが分からないほど無知ではない。  僕だって大人が接吻する様子を見かけたことだってある。もちろん、数は多くないが自分で自身を慰めたことだって……  ニールにされた行為は、頭が真っ白になるような出来事だった。  意味も分からぬまま快感に流されて溺れていくような感覚。  気づいたときにはすでに絶頂を迎えていた。  他人になんて触られたことのない身体の一部を、最近、生活を共にすることとなった男に触られてしまった。  でも、怖いとは一度も思わなかった。  日常でもニールがいなければ臆病に縮こまり、ニールがいれば笑顔を作れるほどまで、この異国人が僕の情緒を左右していたのだ。  それに加えて、自分で触るよりもっと気持ちが良かったんだ。接吻も興味本位で同級生としたときよりも、官能的でお腹の底に違和感を感じた。  目をつむり思い出すと頬が火照る。  頭に浮かぶのは、自分よりも大人で体の大きいニールの逞しい手のひら。  先ほどまで、その手のひらが僕の顔や体を触れ、撫でまわしていた。  普通だったら怖がるべきだろう。出会ったばかりの人間とするような行為でないということも僕は頭の中で理解している。  それなのに、とても自然な行為に思えて僕の心はじんわりと温かくなっていった。    寝床に寝そべりなおすと、先ほどまで隣に横たわっていた人の余熱が感じられる。  どこへ行ってしまったのだろう。  戻ってこないのだろうか。  一人で寝ることになるのか?  早く戻ってきてほしい。  急に感じたのは寂しさだった。

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