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第19話 アサの英雄

――怖かった  僕を落ち着かせようと髪を撫で背中を撫でてくれるニールの瞳は、夕方の陽射しに輝いている。青だったり緑だったりに見えるこの瞳は宝石の様だ。「キンイロ」の髪が額にかかると、僕の英雄は宝石箱のように眩しく見えた。  助けに来てくれなかったら何が起きていただろう。頭をよぎるそれは末恐ろしいものだ。あんなにも人を怖いと思ったことはなかった。物理的な痛みより、恐怖に駆られた心がどくどくと痛んでいた。  ふわりと擦られた背中から伝わったのは心地よい熱だった。優しい眼差しを向け、逞しい声で話しかけてくれる。  それだけで、棘が千本も刺さったような心がゆっくりとゆっくりと和らいでいくような気がした。  「ニール」  目の前にある筋肉質な胸に手を当てると、青緑の瞳が細まった。  同じ男なのに僕よりしっかりした作りのニールの顎に指を這わせると、短く生えている髭がちくちくと刺激を与える。「キンイロ」だけじゃない。橙色や茶色の混ざる髭を慎重に触っていった。  唇に辿り着くと大きな肩が少し揺れた。それでもニールは何も言わず。僕の好きにさせてくれるようだ。僕のとは形の違う唇に指を滑らせ、形を確認する様に自分の唇にも指を這わせた。何もかも逞しい作りのニールは、唇だってしっかりしている。  「アサ」  すっかり夢中になっていた僕の両手首が、優しく包み込まれた。そっと胸元に寄せられた手から気持ち良い体温が伝わってくる。  近づいてきた顔に唇を寄せると安心感で心がいっぱいになり、僕は瞼を閉じた。

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