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第27話 仕立て屋の話
カランコロンと音が鳴り開いた扉の先には、鮮やかな色の衣服が並んでいた。扉が開いた拍子に隙間風が流れ、棚に掛けられた袖がフワフワと踊っている。
「ワッ」
小さな歓喜をあげた黒髪を撫でると握りしめられた手がきゅっと締まる。
「イラッシャイマセ、ニシノヒトカネ」
片言の言葉が聞こえる方に目を向けると、何重にも連なる布の山の向こうから、背の低い老婦が立ち上がった。
「ああ、よくわかったな。俺らの言葉を話せるのか。助かる。この子に服を何着か見繕ってくれ」
「カシコマリマシタ。コッチネ」
「……ニール?」
俺たちのやり取りが理解できなかったアサが俺の背後に隠れた。船の人間には慣れてきたのか、俺がいなくても一人でいられるようになったが、この土地の人たちは、金髪で肌の白い俺たちとはまた違う、縮れた黒髪に褐色の肌が特徴だ。見慣れない外見の老婦に躊躇しながらアサはぎゅっと俺のシャツを握っていた。
「大丈夫だ、アサ。服を作ってもらうんだ」
「フ、ク」
「そうだ、いい子だな」
恐る恐る自分より背の低い老婦を追っていくアサは、二歩歩けば後ろを向き俺の顔を見て、もう二歩歩いて、後ろを振り向くを繰り返す。
「いい子だ、アサ。俺はここにいる」
「ダイジョウブネ、サイショ、ウデハカルヨ」
見よう見まねで腕を拡げ、後ろを向けと言われ、クルクル回り体の寸法を測られるうちに、こわばっていた顔は安堵の色を見せていた。
「アサ、欲しい服はどれだ?」
見本として掛けられた服を指さし見せていくが、ピンと来ないのかキョロキョロと見回すだけだ。
「そうだな、これとかどうだ」
紺色の短パンと白いシャツを見せるとアサはうんうんと頷いた。
「この3つの色違い、そうだな紺色とこげ茶、黒もいいかもしれないな。シャツはこの白と黒、水色も用意してくれ」
「ワカッタヨ。ジカン、アシタ、アサネ」
「明日か、分かった。今日は観光でもするか。ああ、これとこれも頼む」
棚に飾られている小物の中から、アサに似合いそうな物を数品を掴み机に置いた。
「…ニール?」
「ああ、アサに似合う靴下とソックベルトだ」
「ク、ツシタ?ベ、ル、ト…?」
「あとで見せてやる。さあ、他の店にも寄ってみよう」
「ン…」
差し出された小さな手を握ると俺たちは店の扉を開いた。
吹き抜けるそよ風が暖かい。
見上げると雲一つない空が広がっている。
「いい天気だな、アサ」
「タ、イ…ヨン」
「た、い、よ、う。もうちょっとだな、アサ」
「ウ、ン。タ、イ、ヨウ…キレ、イ」
空を見つめるアサのまつげがキラキラと輝いていた。
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