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第26話 寄港地到着
寄港地に着くと、ぞろぞろと船員たちが船を降りていく。
燃料補充のために泊まっただけだ、出発は3日後となる。
それぞれ陸にいられる間にすることは決まっているようだ。共にどこかへ向かっていく者たち、一人で違う方向に向かう者、港でゆっくりと煙草を吸う者、それぞれ思い思いに休息を楽しむこととなるだろう。
「アサ、行くぞ」
「ウ、ウン」
俺らの船に迷い込んで以来、初めて陸に降りることとなるアサは右に左に忙しく頭を動かしている。言葉の通じぬ船で目が覚めたこと自体恐ろしいことだろうが、またもや、全く言葉の違う国へと降り立ったのだ。不安で仕方ないのだろう、小さな手が俺の手を握ってきた。
「大丈夫か?」
「ン…」
歩きだすと、不思議そうに自分の足元を見下ろしている。
「気分が悪いか?」
「ア、シ…」
「ああ、船から降りたばかりだからな」
「ン?」
「船から降りると少しの間身体が揺れるな」
「ン…」
ぎゅっと握られた手は少しばかりか震えている。小さな身体をこちらに引き寄せ両手で包むと、ほっと息が漏れるのが聞こえた。
「ダ、イジョブ…」
「少しだけこうしていよう」
背中をさすり、港のベンチに座ると黒髪の頭がこてんと肩に寄せられた。海風に吹かれ流れる髪はつやつや輝き美しい。風でめくられたシャツの隙間からは白い肌が顔を見せている。
「アサ、服を買いに行こう」
「フ、ク?」
「ああ、俺のシャツをずっと着ているわけにはいかないからな」
アサが着ているシャツを軽く掴むと漆黒の瞳が俺の手を追った。風ではだけた胸元を手繰り寄せると、白い頬が淡く色づく。
ここ数カ月で愛しさを増した小さな少年の顎を指で撫で、こちらを向かせると、心ばかり濡れた眼差しが俺を真っすぐと見つめた。
「アゥ…」
軽く唇を合わせ立ち上がり数歩進むと、可愛い声色が背後で聞こえた。
「行くぞ」
手を伸ばすと、真っ赤な顔をしたアサがパタパタと走ってくる。
小さな手を掴み、歩幅を合わせて俺たちは街中へと進んでいった。
.
.
.
「きゃー!ショーン!ショーン!」
「何ですか、ケン。他の方に迷惑になりますので静かになさらないと」
「ニールがね!ニールが!アサにね!きゃー!」
「ニールとアサがどうされたのですか?」
「チューしてたの!」
「こうやってですか?」
「っ!ん!」
船員たちの秘密は増えていくようだ。
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