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第25話 いただきます
「で、これはどういう状況なんだ?」
朝の当直が終え部屋に戻るとアサはいなかった。先日のこともあり嫌な予感がしながらも、他所で時間を潰しているのかもと談話室や甲板を覗いたが見当たらない。最後の最後に食堂を顔を出すと、休憩中の船員たちが10人ほど輪になってワイワイと騒がしくしていた。
「あ、ニールさん、お疲れ様です」
振り返った船員たちがお辞儀をすると、輪が開き、その真ん中に座るアサとケンの姿が見える。
「オ、ツ、カレ…サ、マ」
「ニールだああ!!!」
「ケン、そこはお疲れ様と言うところだ」
一歩一歩近づくにつれ、船員たちはそれぞれ離れた席へと散っていった。
「じゃじゃーん!」
わっと頭上に上げたケンの両手には大きな皿が乗っている。
その横でうんうんと頷いているアサの頬には白い粉がついていた。
――なるほど、パブロバを作ったのか
メレンゲを焼いた白い生地の上には赤や黄色の果物が輝き、隙間から生クリームが溢れている。
「アサ、ついてるぞ」
するりと頬を拭うと、はっと目を見開いて小さな手が頬を包んだ。
「あーあ、ニール、アサが照れちゃったの!」
「何でそうなるんだ」
「ダ、ダイ、ジョブ!」
「で、何を作ったんだ、お前たちは?」
「アサ、ニールに言わないと」
「ン…パ、バ、バ、ロブ?」
「くっ、惜しいな、アサ」
「あはは!アサ、もう一回だよ!」
「ンー…パバ、ロ…ブ?」
「難しいな、アサ。これは、パブロバだ」
「パ、ブ、ロ、バ…」
「わーい!アサが初めて言えたの!」
「いい子だ、アサ」
さらさらと流れる髪を撫でるとアサの頬が赤さを増した。
「アサ、俺は一度部屋に戻って寝る。お前はどうする?」
「ヘヤ…ウン」
「えー戻っちゃうのー?!僕は僕は?」
「お前は昼食の仕込みがあんじゃないのか?」
「そっか!片付けもしないと!ショーンに怒られる!」
「ケン、バイ、バイ」
「えーアサも僕に行ってほしいの?悲しいいいいい!」
「ン?ン?」
「早く行け。これは、昼食のデザートにしよう」
「わかったー!じゃあねえ!」
つんつんと腰を突っつかれた方向に目をやると、アサの手には小皿が乗っていた。
「ニー、ル…タ、ベル…」
「今か?」
「ウ、ン…」
今日の朝食は可愛いアサが作った生クリームたっぷりのデザートとなった。
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