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第29話 公共の場

「アサ、こっちだ」 グッと小さな手を引き早足で通り過ぎると、俺たちは市場の裏にある路地裏に入った。人が2人通るのが精いっぱいの細い道は、両側を砂色の建物が挟んでいる。山を切り開いて作られたこの街は坂道が多いのが特徴だ。道の所々が階段となっていて、腰を掛け出店で買った食べ物を頬張る人や、コーヒーを飲む人、チョークで落書きをする子供たちなど、それぞれ思う存分に朝を楽しんでいる様子が目に入ってくる。 きゃあきゃあと走り回る子供たちを避けながら階段を上り、人気の少ない所に着くとアサの手を引き腰掛けた。 「ン…」 顎に手をかけ唇を奪うと、驚いたのか可愛い喘ぎ声(なきごえ)が漏れる。横に座るアサの腰を手繰り寄せ、距離を縮めると可愛い手が俺の背中に回ってきた。 何に欲情したんだ?自分の気持ちに混乱しながらも、淡く色づく唇を味わい、ゆっくりと隙間を割っていく。呼吸をするタイミングを計れないアサが、開いた隙間からハクハクと息を吸い込んでいく。そんな仕草でさえ…呼吸という当たり前の仕草でさえ、欲を煽るには十分だった。 羽のように軽い体を持ち上げ、自分の膝の上に下ろすと小さな背中が身じろいだ。逃がさぬように腰に手を回すと、白い頬が赤く色づいていく。おいしそうに熟れていくその肌に口をつけ、唾液に濡れた唇を舐めると、漆黒の瞳が涙で潤んでいた。 「ニール…」 小さく呟かれた自分の名前に目を合わせると、困ったように目じりを下げたアサが目に映った。もぞもぞと動く姿が微笑ましい。するりと首筋を撫でると俺の膝の上に跨った身体が快感に震えた。 「ここか?」 「…ッ!ダ、メ」 ズボンの上から軽く触れると、頭を左右に振るアサに合わせて、サラサラと髪の毛が揺れていく。快感に耐えているのか、どうすることもできない欲に震えているのか、下を向いたまま顔を上げないアサの頬を両手で包み、もう一度唇を合わせた。 「ニール!ニール、ココ、ダ…メ」 公共の場でやることではないのは正論だ。それでは、どこなら…と頭を悩ませていると、市場の入り口付近に宿屋があったことを思い出した。 あそこなら…

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