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第46話 ニールの心と頭
「アサ…大丈夫か?」
「ウ、ン…」
未だに頭2個以上上にある俺の顔を見上げずに動かないままアサは応えた。
声が震えている。
誰かさんと違い、元々大声で話すような子ではないが、今は消えてなくなってしまいそうだ。
潮風が吹くたびに、少し伸びたアサの前髪が流れるように動く。
艶々と輝く髪を撫でると、小さなため息が華奢な体から漏れ、緊張にこわばっていた背筋が幾分緩んだように感じた。
「この人と話したらどうだ、アサ。島国の人だろう?」
「ン?ハ、ナシ…ボク…コト…バ」
「ああ、お前の言葉を話す人だろう」
「ウ、ン…」
「大丈夫だ、アサ」
小声で返事はしたものの、アサは動かなかった。
この愛しい子は、何を思い何を考えているのだろう。
その何かの中に、俺の存在は少しでも含まれているのだろうか。
数カ月共にした生活の中で、俺の存在はアサにとって大切なものになったことを祈り、どれだけ小さくても、どれだけ馬鹿げたことでも、この子と過ごした月日は忘れてはいけないと自分に誓う。
俺の胸に寄りかかるアサの背中から早まる鼓動が感じられる。
顔を覗けば、いつもは薄桃色の頬が青ざめたように真っ白になっていた。
「時間を取らせて悪いが、この子の話を聞いてくれないか?」
「アッ、ニールッ!」
ぎゅっと腕を掴んでくる指は力が入らないのか、痛みは感じられない。
アサの鼓動が早くなるのと同時に、自分の頭の中で様々な思いが入り混じるのを感じた。
この子にとって、一番良いことをしなくては。
愛しているからこそ、大切だからこそ、アサが帰りたいと言ったら、この人達に託し、あの島国に帰してあげなくては。
でも、我がままな心は真冬の自国のように凍てつき、昨夜初めて抱いたこの子を一生放したくないと叫んでいる。物資補充のために寄港したこの地で、アサの祖国の人間がいるなんて、思ってもみなかった。
それは、自分の意思に反し運命のいたずらで異国の船に乗ることとなってしまったこの少年にとっては、喜ぶべき出会いで、数カ月前の俺であれば良かったなと言葉を掛けてあげられたに違いない。
心の中で思っていることと頭で理解していることは、時に一致しないものだ。
お願いだから俺の前から消えないでくれと、我がままな思いが心を満たし、アサを包む腕に力が入った。
「コノコ、カイ?」
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