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第61話 家族の定義

「震える? 何のことだ?」 「先ほどから、手が震えているのに気づいてないのですか?」 「…」 「頭より身体の方が正直なようですね、ニール」 「バカにしたような物言いだな」 「いや、心身ともにこの子との別れを嫌がっている証拠ではないですか?それなら、アサを奪ってしまえばいい。アサの家族になればいいのではないですか?」 「アサには両親や友人が国にいるんだ。家族になれと言われて、本物の家族の代わりになれるはずがない」 「アサの第2の家族になればいいんですよ。いつか航海を続ければ、またあの島国に行きつく。その時にアサの本物の家族に会うことだってできるはずです」 ベッドの上でアサの肩を抱き寄せると、漆黒の髪がサラサラと揺れる。 色の薄い髪色の船員が多い船で、黒色の髪を見つけるといつでも心に光りが灯る思いをした。 真夜中のように美しいこの髪に触れると、どんなに長い当直後でも疲れが癒える気がしたのだ。 「ダメだ…俺に、この子の人生を奪う権利なんてない…」 アサの髪を撫でていた自分の手を見つめると指先が細かに震えていた。 「後から後悔するのはあなたですよ」 「もう決めたことだ」 足元に視線を落とし、震える手を自分の膝に置くと、アサの手が重ねられた。 小さな手だ。 頼りない、細い指。 透き通るような肌。 一生守ってやりたいと生まれて初めて思った子。 「アサ、あなたはどう思っているのですか?」 「ショ…ン?」 「分からなくてもいいので聞いてください」 真剣な顔をしアサを見つめるショーンに、俺の手を握る小さな指が強張った。 「私も、ケンも、あなたに会えてよかったと思っています。あなたが残りたいと思うなら残ってほしい。家族のもとに帰る機会だと言うのはわかります。それでも、私たちの船には、あなたをかけがえなく思う人がたくさんいるのです」 「ン…?」 「アサ、お願いです。少しでも帰りたくないと思うのなら、残ってください」 「おい、ショーンもうやめろ」 「いいえ、言いたいことは言わせてもらいます」 「ちょっとぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」 パーンと大きい音を立て扉を開き登場したケンに全員が息を飲んだ。 「ケン、頼むからもう少し静かに扉を開け」 「無理!」 「はぁ…」 「そ、れ、よ、り!ちょっと!どういうこと?僕、納得してないんだけど!」 「お前が決める問題じゃないだろう」 「はぁぁぁ?!やだ!意味わかんない!」 「ケン、一度落ち着いて座ってください」 「やだ!僕、落ち着いてるもん!」 「ケン、ボリューム落とせ。近所迷惑だ」 「二人に話しても意味ないし!アサ!話しよ!」 「ケン……?」 俺の横に座るアサの目の前に腰を下ろしたケンの目元は赤く腫れていた。

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