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第76話 アサとみんなの夕飯

「アーサー!お迎えに来たよーっ!!!」  ケンの大きな声は眠気眼をこする僕には少しきつすぎる。部屋に戻ってきてすぐにあれだったりこれだったりをされちゃったから、体には少し気だるさが残っていて、特に腰あたりに甘い痺れを感じた。 「ケン、オハ、ヨ…」 「アサー!おはようの時間じゃないよ!もう夕飯の時間だよ!」 「ン??ユ、ウハ…ン?」 「そう!みんなで外にご飯食べに行くんだよぉ!」 「ン…」  眠る前にはまだ外は明るかったはずなのに、窓の外にはきれいな夕焼け空が見える。  扉の近くで立ち話をしているショーンとニールに目をやると、先ほどまで僕の肌に触れていた唇がニコリとほほ笑んだ。 「アサ、行くぞ」 「ハイ…!」  道端の木々がカサカサと静かに音を立てる中、僕たち4人は町中へと向かっていった。  薄手の長袖にズボンしか履いてこなかった僕は肩をフルフルと震わせる。 「寒いのか?」 「サ、ムイ…?」 「ああ、こっちだ」  背丈の高いニールががっしりと僕の肩を包む。薄い布を通して伝わる体温に僕の心がじんわりと温まり出した。 「ニール、こちらでどうでしょう?」 「ああ、いいんじゃないか?」  僕たちが立ち止まった店は、この町によくある石造の建物にあった。扉の上に看板が掲げてあるが僕にはなんて書いてあるか分からない。 「アーサッ!」  ぴょんとケンが跳ねると僕の腕を引いた。 「早く行かないと食べ損ねちゃう!」  言われたことが全て分かったわけじゃないけど、嬉しそうに笑うケンの笑顔につられて僕も笑顔になった。  良かった。  この人たちといることを選んで良かった。  木製のテーブルを囲んで座ると、僕は店内を見渡した。天井から緑の植物がつるされ、壁に取り付けられた棚には瓶が何個も置かれている。  目の前に置かれた品書きなど僕に読めるはずもなく、僕は隣に座るニールの手を握った。 「ん?大丈夫か、アサ?」 「ン…ユウ、ハ、ン…」 「ああ、何が食べたい?」  心地よい時間がゆったりと流れていく。  笑顔で会話をする3人を眺め、幸せで心がいっぱいになっていくと、僕たちの目の前に食事が届いた。 「んーーーー!!!!!おいしそっ!」 「ケン、座ってください。ちょっと、手ではなくフォークを!」 「ったく、お前らは静かに食事もできないのか?アサ、食べられそうか?」 「ン、ダイジョブ…」  見たこともない食べ物を食べるということを、船に乗ってから僕は何度も経験した。そのせいか、今となっては新しい食べ物が出てきても躊躇することはなくなってきていた。 「ちょっとー!これ辛い!!!」 「おい、ケン、お前口閉じて食べれないなら一人で帰ってもらうぞ」 「ええええ!なっ、僕みたいなか弱い男の子を一人で外に出すわけ?!」 「自分で言うな」  会話の内容は僕にはわからない。でもいつか理解できる日が来るのだと信じて僕は目の前の食事を口にした。

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