「…で、我慢できずに無茶をしたと」 「無茶はしていない、加減した」 「加減ですか？どの辺が？夕飯前だというのにアサは疲れて眠っているし、あなたはやりきった感漂わせて幸せそうな顔しているというのに？」 「とにかく、時間には間に合ったんだ。お小言はこの辺で終わらせてくれ」 「はぁ…分かりました。それでは明日の予定を確認しましょう」 　しれっとした顔をしてショーンは俺らが泊まる宿屋に予定の時間に訪れた。 　一目俺を見ると大げさなほど大きなため息を吐き、ベッドに寝るアサに視線をやると左右に首を振った。 　船生活で必要であるものは計画通り補充されている。 　アサの騒動があったものの、船員たちにとってこれが初めての寄港ではない。 　役目を割り当てられたものは必要であるものを補充し、余った時間をそれぞれ休暇として楽しんだようだ。 　泣いたり叫んだりで忙しかったケンも、後れは取ったものの、厨房で必要な食材などの仕入れはちゃんとできたとショーンが報告してくれた。 「今後、船に残ると決められたアサの役割なのですが…」 「ああ、このまま仕事を与えずに船に乗せておくわけにもいかないか」 「そうですね…今までは迷子の子供を預かったといった感じな扱いでしたが…」 「…迷子の子供…あながち間違ってはいないが…そうだな船長と話はしたか？」 「言葉が障害となるのと、訓練を受けているわけではないので難しいことはさせられないが、厨房でケンと働くのであれば問題はないだろうと」 「それが一番いいかもしれないな」 「ええ…ケンの落ち着きのなさをアサが鎮めてくれるのではないかとも言っていました」 「…それが出来たら奇跡だな」 「あの子も落ち着くときはあるんですよ、ニール」 「初耳だ」 　部屋の隅に置かれたベッドで眠るアサに視線を向けると、真黒な髪が白い頬を隠し毛布で包まれた肩が静かに上下していた。 「他に確認することはないでしょうか？」 「俺からはない。あとは予定通りにみんな乗船し、出港するのみだ」 「分かりました。それではこれでお開きと言うことで」 「ああ、お前たち、今夜の夕飯はどうするつもりだ？」 「まだ決めてませんが…アサは食べれる状態ですか？」 「起こしてみないと分からないが、さすがに何か食べさせないと…夜中に腹を減らして目が覚めてしまったらどうするんだ？」 「どうするんだって、それはご自分で何とかするだけの話では」 「この街は何でも早く閉まってしまうんだ、夜中に開いてる店などない」 「それでは、30分後に夕飯と言うことにしますか？外に出かけてもいいですし、どちらかの宿泊先で食べてもいいですよ。何ならケンに何か作ってもらいますか？」 「外で食べるか…この街に戻ってくることもなかなかないからな。それにケンの料理はこれから何日も食えるしな」 「では、30分後にケンを連れて戻ってきますので」 「分かった」 　穏やかな寝息を立てるアサを起こすことに罪悪感を覚えた俺は、ショーンが部屋を去って数分間、ベッドの端に腰を掛け愛しい人の髪を撫で続けた。 「アサ…起きられるか？」 「ン…」