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第78話 ショーンの心配事

「アサには厨房でケンと働いてもらうことになりました」 「うんうん!昨日も夕飯で話してたやつだよね!」 「はい、業務連絡なのできちんと報告させていただきますね」  落ち着きのない髪の毛がふわふわと宙に浮いている。じっと座っていることのできないのは小さいころからケンの癖だ。  親も身よりもないケンを何かの縁で引き取った船長のもとで働き出して何年たったのだろう。幼くて小さくて泣き虫だったケンはなぜか私に一番懐いていた。  「当直開始時に調理する内容などを説明、分からない言葉はスケッチブックなどに書くなどして覚えてもらえるようにすること。その他調理などで使う用語からでいいので、極力言葉を教えて会話をすることに力を入れてください」 「りょーかいっ!そのくらい簡単だよ!」  懐いてきたから気にかけ始めたわけではない。気が付いたら危なっかしい彼の行動にはらはらさせられ、いつの間にか「ケンの面倒見役」と同僚から呼ばれるほど面倒を見ることになってしまったのだ。 「今日の当直はいつですか?」 「んーっと今日は、お昼は休みなんだ」 「夕飯の当番なんですね」 「そう!でもその前に買ってきた食材とかを仕分けしろって言われるかもー」  ケンのほかにも厨房で働くものは3人いる。一人は厨房長のシドで、幼いケンに料理の仕方を教えてきた。残りの2人はケンと同じくスタッフとして勤務している。二人とも最近この船で勤め始めた、確か1年位前だったはずだ。 「それでは、アサにも今夜から働いてもらいましょうか?」 「んー、それでニールは大丈夫なの?」 「と、言うと?」 「だってニールは朝の当直で今働いてるんでしょ?」 「そうですね」 「ってことは、夕飯の休憩が6時からで、8時には仕事に戻ることになるでしょ?」 「いつも通りですね。4時間働いて8時間休憩して、4時間働く」 「そう!それ!それなの!で、アサには4時から厨房で働いてもらうとして…それでね、ってことはね、お昼から8時間ずーっとアサと一緒にいられると思ったのに4時間しか一緒にいられないことになっちゃう!」  目の前の大きな瞳が一段と見開きキラキラと輝いた。少し前のめりになりこちらを見つめてくるケンの髪を私は撫でると、落ち着いて、と席に座らせる。 「仕事ですから、分かってくれるはずです。ニールだってその辺は割り切れるはずですので」 「んー…そうだといいんだけどー」 「大丈夫ですよ。それでは、アサにこのことを伝えに行きますか?眠っているかもしれないので静かに行きましょう」 「りょうかいっ!!!!!」 「しー、静かにっ!」  この時、部屋で休憩中のアサが何をしているかなど考えもせずに、私たちはニールとアサの部屋へと向かったのだった。

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