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第89話 ショーンは大変
「だからね!4時から一緒に仕事しようねっ」
「ウ……?」
「ケン、もう少しゆっくり説明しないと伝わりませんよ」
「えー!」
大丈夫だろうか。ケンに説明を任せたけれど、なかなか先に進まない。ゆっくり話せば伝わるだろうし、何ならここにあるスケッチブックに時間と言葉を書けば……
「私から説明しましょうか?」
「だめ!僕がやるの!!ショーンは黙ってて!」
元気の良い瞳が力強くこちらを見つめる。こう言い出すと私からは何もできないのだ。ケンは自分でやりたいことはやらなきゃ気がすまない性格だ。
すでにニールのせいで予定以上に時間を取られてしまった。あの人はアサがいると性欲の塊だ。全てがアサ中心でまわっている。仕事にしか興味がなかったニールが他のことに興味を持ち出したのは良いことだけど……
「でね!4時から仕事。キッチンね」
「ボク……?」
「そう!僕と一緒ね!」
「ウ、ン……」
「大丈夫!前と同じだって!ただこれからは僕と毎日お仕事するの!あ!もちろんお休みはもらえるよ、それでねあのね、一緒に言葉も覚えていこうね!」
「ウ……?」
この二人のやりとりはもどかしいのに可愛らしい。話の内容なんて濃いものではないのだ。毎日どうやって意思疎通しているのか不思議になるくらい話が通じていないのに、「親友」や「兄弟」と言っていいような関係だろう。私なんて間に入れないような……ニールとアサとの関係とも違う特別なもの。
「アサ、4時にケンが迎えに来ますので」
「ヨジ…?」
「そうです、4時」
スケッチブックに書いた数字と時計の絵を見せるとアサがうんうんと頷いた。
隣で機嫌が悪そうに頬を膨らませているのはケンだ。先ほどまで嬉しそうにわいわいやっていたのに、私が口を挟んだからだろうか……
「僕が説明するって言ったのに!」
「すみません、こうしたほうが早いかと思って」
ふわふわの髪を撫でると「うー」と小声でうなるケンはいつも通り。成長したようで成長しれていない。10年前に出会った時からこの子はこんな感じだ。
「ケン……?ダイジョブ?」
「アサーーー!!!!ショーンがいじめるぅ!」
「イジメ、ル?」
「いじめてませんよ。大丈夫です。私は仕事の準備をしますが、二人はどうしますか?」
このことで1日を潰されるわけにはいかない。出港してから寄港地で買ったものを片付けたりしたかった。時間は有効的に使わねば。
「僕たちはお茶のみに行こうか!?」
「ウ、ン!ケン、ビス、ケット…?」
「アサ、めいあーーーーーん!!!ビスケットビスケットぉ!」
当直が始まるまであと15分。12時から始まる当直は16時まで続く。残された時間を有効活用しなければ、と私は心に誓った。
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