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第91話 アサのお仕事

 と、いうわけで僕は正式に厨房で働くことになったみたい。    毎日同じ時間にケンが迎えに来て僕たちは厨房へ向かう。  料理なんて初心者な僕はすごく簡単なことしかさせてもらえないけど、それでも今まで以上に自分の居場所ができた気がする。  じゃが芋の皮をむいたりとかそういう簡単な作業が多いんだけど、ケンが忙しく料理しているときは、一人でぼーっと考える時間とかができて意外と落ち着く。  トントントンって向こうの方で鳴っている包丁の音を聞きながら、故郷のこと、この船に残ると決めたこと、ニールのこと、船での生活、自分がしなきゃいけないこと、考えだしたら止まらない。  ニールと一緒にいる時間が減っちゃったのはちょっと寂しいんだ。でも同じ船にいるからね、遠くにいるんじゃないし、僕は大丈夫。ニールは、ちょっと気に食わないみたいだけど、慣れる、よね? 「ねえ、アサってばぁぁ!聞いてる???」 「ワッ!ナ、ニ…?」  ほら、こうやって。あまりにも考え込んでしまって周りの声が聞こえないときだってあるんだ。  そう、この船で一番声の大きいケンの声だってね。 「アサ、これは何だか覚えてる???」 「ンー……ニンジ、ン?」 「あったりー!」  ケンは仕事をしながら僕に言葉を教えてくれる。  大体食べ物の名前だったりするんだけど、段々知ってる単語の数が増えてきたんだ。    まだ会話が成り立つってほどではないけど、船員さんたちも時々話しかけてくれるようになってきた。  みんな優しくってゆっくり、身振り手振りで話をしてくれるんだけど、いつもニールかアサがやってきて僕を連れて行っちゃうから、そう長い時間話はできないんだ。 「じゃあアサ、人参を10個持ってきて」 「ジュッコ……」 「そう、はやくはやく!」  この厨房は、実家の台所より大きい。鍋もまな板も何もかも僕が島国で目にしたものより大きくて、それを扱ってるケンはそこまで大きくないから不思議な感じ。意外と力持ちなのかもしれないな。  ケンに頼まれたニンジンを取りに行くために厨房を去る。野菜は厨房に保管されているんじゃないんだ。ここをまっすぐ進んですぐ右にある倉庫みたいなところ。ちょっと暗くて、寒いその部屋には野菜がたくさん保管されてる。 「イッコ、ニコ、サンコ……」  この船に残ると決めたからには、僕は何としてでも言葉を習得したかった。そのためにはできるだけ使わなきゃいけないんだ。  教えてもらった言葉を繰り返して繰り返して頭の中に刻んでいかなきゃ。 「ニンジン、ジュッコ」  少しの前の自分とちょっと違う。  僕は、ただニールの後ろに隠れて何となく毎日を過ごすのを辞めたんだ。  だって、自分で母国に帰らないって決めたんだもの。  留まるって決めたからには努力しなくちゃ! 「アサぁぁ!!!!迷子にならなかった?大丈夫?わっ、人参10個持ってこれたね!やったぁぁ!」 「ウ、ン、ハイ、ドウゾ」  どんなに時間がかかったって僕は頑張るんだ!      

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