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第103話 ショーンは助けを求める

「おい!落ち着けって今日何度言ったらいいんだ」 「す、すみません!ケンが」 「ショーン、いったん中に入れ」 「失礼します……」  怒鳴られるとは思っていた。  私らしくない行動をとっているのも分かっている。  ニールとアサが泊まる部屋に入ると、ベッドに腰を掛けたニールが腕を組んでこっちを見上げてきた。   「で?」 「ケ、ケンが!」 「だから落ち着けって」  落ち着けるものなら、ここまで来ずに自分で何とかしている。  できないからこうしてここに来た。   「ケンが、熱が、あの、すごく苦しそうで」 「悪化したってことか?」 「恐らく!」  だから、何とかしてくれ、自分一人じゃできないんだ、なんて、子供じみたことを私は言いに来た。    眠る前のケンは少し顔色が良くなったように見えた。  きっと目が覚めたらすっきりしてるのではないかと、ほっとしていたのに…  穏やかに眠っていたと思ったのに、横に座って本を読んでいたら聞こえてきたのは小さな唸り声だった。  頬を真っ赤に染めて、額から汗を流して、小さな胸がゼイゼイと上下していた。  明らかに、何かがおかしい。  良くなっていないどころか今まで以上に悪化している。  こんな時に、私は全く使えない人間と化すのだ。  昔そうであったように、足が棒のようになり頭が回らなくなる。    ただ、目の前で苦しむケンはまだ生きている。  自分にできることがないとしても助けを求めることはできる。いや、今の私にはそれしかできない。 「アサ、ここで待ってろ」 「ケン、ノ、ヘヤ?」 「ああ、でも心配はいらない」 「ン……」 「おい、ショーン、しっかりしろ。行くぞ」  扉を押さえたまま顎で私を呼ぶニールに駆け寄ると、アサの手が私の腕を掴んだ。 「ショー、ン」 「はい…あの、行かないと」 「ダイジョブ」 「えっと」  大丈夫と言われても、大丈夫じゃないかもしれないのに、大丈夫だなんて軽く言わないでくれ。  ああ、なんでこんなことしか思いつかないんだ。  もっといつもなら「ありがとうございます」と言えているはずなのに。 「アサは、お前にしっかりしろって言いたいんだよ」 「いや、でも」 「俺なら分かる」  それはそうなのかもしれない。  アサとニールの繋がりは期間にすれば短いけれど、とても深いものだから。  言葉に不自由なアサが言うことはこの人が一番わかる。それも愛ゆえ、なのだろうけど。 「ありがとうございます、アサ。ケンの様子を見に行ってきますね」 「ウ、ン」  記憶の奥にしまい込んだ嫌な思い出が、無理やりにでも顔を出しそうな予感がする。  小さくアサにお辞儀をして私は、ニールのあとを追った。  

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