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第104話 ニール、役に立つ

「やはり難病なのでしょうか」 「何でそうなんだよ」  いつも落ち着いてシレーっと何でもやって見せる完ぺき男ショーンはどこに行ったって言うんだ。  顔面蒼白で最悪の事態しか考えられなくなってんじゃねーか。  意味不明だ。    ケンの風邪も心配だが、こいつも心配だ。  放っておいたらパ二クって船から飛び降りそうな勢いだ。。  10年も一緒に船で生活していれば、何かあったことぐらいすぐわかる。  でも、他人が顔を突っ込んでいい場合とそうじゃない場合がある。    他人を頼るかどうか、それを決めるのは当人だけだ。  まぁ、あとタイミングとかそういうこともあるんだろうけど。 「おいケン、俺だ。どこが痛いか言ってみろ」 「んんん…ぜん、ぶぅ…」 「全部か、それは辛いな」 「うううううぅう」  ケンの額は異常なほどに熱い。  生憎、船には医者は乗っていないし、次に陸にたどり着くのはずっと先の話だ。 「ショーン、ケンの傍にいてやれるか?俺は薬と水を取ってくる」 「でも!」 「ベッドの横に座って手でも握ってろ。風邪ひいたときは心細くなるだろ」 「は、はい、分かりました」  大人しくベッドの横に椅子を引き座ったショーンを横目に俺は薬を探しに部屋を出た。  船は、病人が出ても泊まることはない。感染病の場合は、別の話だ。命に係わる病気に船員全員がかかったら笑えた話じゃない。  最悪の場合、船を近くに泊めて医者に診てもらうことになるだろうが、それでも治らなければ、その病人を置いたまま、船は目的地へと進んでいくだろう。    そうなれば、完治したときに、次の船に乗ってそいつは国に戻ることとなる。母国で自分が元々乗っていた船が戻ってくるのを待つこともできるが、家で待っているだけじゃ給料は出ない。  元々乗っていた船と契約を解除できれば、次の船と交渉しすぐに仕事にありつけるだろう。  解除できなければ、その船の持ち主の別の船に乗って仕事を始めるだけだ。  どれも、健康になればの話だ。  船で仕事をしている以上、ある程度健康でないといけない。   貿易船に乗っている俺たちは自由に世界を旅しているようで、とてつもなく隔離されている。 「船長、こんなところにいたんですか」 「お、ニールか。俺だって談話室にいてもいいだろ。誰も談話してくんねえけどな。おい、ショーンはどうだ?」 「ケンの心配の前にショーンですか?」 「なんだ、ケンは寝たんだろ?」  白髪交じりのあごひげを揺らした船長はくるっと椅子を回してこっちを向いた。   「それが熱が悪化したみたいで」 「そうか…で、ショーンが空回りしてるって?」 「まあ、そんなところです」

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