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第108話 ニールと解熱剤
「で、なんでケンは裸なんだ?」
「こ、これは!」
いつも落ち着いてる奴を慌てさせるのは面白いな。ってそんなこと楽しんでる場合じゃないだろうから口には出さないが。
「汗をかかれていたので拭こうと思いまして」
「そんなことだろうと思ったよ」
上半身裸で、ベッドに寝そべるケンは眉間にしわを寄せながらこちらを見つめてくる。
「おい、大丈夫か」
「んー……」
「まだ、ダメか。サイを連れてきた。しっかり治してもらえ」
早くシャツを着せないと余計悪化すると気づいたのか、ショーンはあたふたしながらケンに新しいシャツを着せている。
俺の隣に立っていたサイがパタパタとベッドに近づき、ケンと目線が合うように跪いた。
ケンの部屋は、カラフル過ぎる。
途中途中で泊まる国で買った土産物や絵画が至る所に飾ってあった。決して趣味が悪い部屋ではないのだが、ごちゃごちゃしていた。
「ケン、おでこ触るね」
「ん……」
「熱いね。次は首に触るよ」
慣れているのか、サイは次々とケンの体に触れていった。短くしか言葉を返さないケンは、毛布にくるまって、顔を真っ赤にしてコクコクとうなずいている。
2人のやり取りを見つめていたが、ショーンのため息が後ろから聞こえ振り返った。
椅子に座って頭を抱えて疲労感満載だな。
「おい、どうした。お前も風邪か」
「いえ、看病には良い思い出がないもので。気疲れだと思います。お二人が来たことで気が抜けたと言いますか……」
「過去に何かあったのか?」
「ここで話す内容でもないので……」
苦笑いをしたその顔は痛々しそうだった。
何か辛い経験をしたとき、誰かに話して気が楽になる人間と、真逆の人間がいる。
すべてを打ち明けて痛みを和らげるか、内に秘めて鍵を閉めて深い底に埋めてしまうかだ。
「俺で良ければ後で聞く」
「楽しい話ではないですよ」
「それはお前の顔見てれば分かるよ」
視線を上げると、ケンの額に濡れタオルを置いたサイが振り返った。
「あの、医者ではないので正確な診断は出せないのですが」
「ああ、それは分かってる」
「僕が診る限り、もう一度熱が上がったら、その後落ち着くはずです。他に症状は出ていないので風邪をこじらせてしまったではないかなと思います」
「そうか、で、どうしたらいいんだ?」
サイは机に置いてあった薬瓶を手に取った。
「ニールさんが持ってきたこの解熱剤を飲んで大人しく寝ているしかないと思います。船で出来ることは少ないので」
「聞いたか?ケン、大人しくだとよ」
「んー……」
「おそらく今の状態では大騒ぎはできないかと」
サイの手から薬と水を受け取ったケンはウゲッと声をあげた。
苦いんだよな、薬。
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