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第109話 アサのショック

 すぐ戻ってくるって言ったはずのニールが戻ってこなくて、部屋にいるのもつまらなくなってきた。  今週習った言葉を何度も紙に書いておさらいするのも、折り紙をおるのも飽きてきた。部屋にある本は全てニールのもので、僕には難しすぎて読めるわけがない。  どのくらい時間が経ったか分からないけど、これ以上部屋で時間を潰せない。    役に立てることがあるかもしれないからニールを探しに行こうと、僕は部屋の外に出た。  最初にたどり着いたのは談話室だ。  休憩中の船員さんたちがちらほらいて、いつも通りワイワイしている、っと思ったんだけど、中に入ってみたらちょっと違うみたいだ。 「おっ、アサか」  手招きをしたのは船長さんだった。  あ、だから談話室静かなのかな。船長がいたらみんな遠慮しちゃうもんね。 「どうした、アサ?今日は当直入ってないのか」 「ニール、ドコ?」 「ハハッ、ったくお前らは口開けばお互いのことばかりだな」 「ン??ナァニ??」  速くしゃべった船長さんの言うことは半分以上分からなかった。  いじわるだ。この人は僕が分かってないって知っていてベラベラ喋っているんだと思う。 「ニールは、サイを探しに行った。そうだな、天気がいいからきっと甲板で絵を描いてるはずだ」 「カ、ンパン?」 「ああ」  ぐしゃぐしゃっと僕の髪を撫でると船長さんはにっこりと笑った。 「あいつは愛されてるなー」 「ン???」  何だかよくわからないけど嬉しそうな顔をしている船長さんにさよならを言って、僕は部屋を去った。  えっと、カンパン。  カンパンは外。  もう何か月も同じ船に乗っているから、迷子になることなんてない。  初めの数か月は、一度どこかに入って廊下に戻ると、自分がどちらの方向から来て、どちらに向かっていたのか分からなくてよく迷子になっていた。  もう船の生活に慣れたのか、と聞かれれば、まだたまに故郷が恋しくなって、涙が出てしまう日だってある。これはいつになれば慣れることなのかは分からない。でも、自分で決めたことだし、ニールがいるから大丈夫。    泣き出した僕を受け止めてくれるのはニールだから。それに、ケンもショーンもいる。他の船員さんたちだって家族みたいなものだ。  カンパンに続く扉にたどり着くと、かすかに話声が聞こえた。  1つはニールの声。あとは少し高めの声だ。    誰だろ。  不思議に思い、僕は扉を開けずに丸窓から向こうを見ることにした。 「え……?」  心臓がぎゅっと痛んで、おなかの底におもりがあるみたいな感覚に陥った。  目の前に見えている光景が何を意味するのか、僕は頭の中で忙しく考えだす。 「なんで?」  なんでニールとサイは抱き合っているの?        

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