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第110話 ニールのピンチ!
「アサ、ただいまって、あれ?」
薬を飲んだケンはあの後スースーと寝息を立て始めて、当直が始まるまで部屋に残ると言ったショーンを残して、俺は自室に戻ってきた。
「どこ行ったんだ?」
すぐにもどる、と言ったけど、ここに戻ってくるまでに時間がかかりすぎた。
待ちくたびれて部屋を出ていったんだろう。
同じ船に乗ってるんだ、歩きまわれば見つかるはずだ。
と、楽観的に考えられるが、数か月前の事件もある。他の輩がアサを部屋に連れ込もうとするとは考えづらいが、あり得ないと拭えるような不安ではない。
綺麗好きなアサのおかげで俺たちの部屋は整理整頓が出来ている。先ほどまでここにアサがいた形跡なんてないくらい、しっかりと物は仕舞われていた。
「ケンの部屋ではないよな」
俺といなければ、大体アサはケンといるが、さっきまで俺はケンの部屋にいた。行き違いになった可能性もあるが、同じ廊下で繋がってるんだ。その可能性は少ないだろう。
と、なるとアサが行く場所は限られている。
一秒も早くアサに会いたくて、俺は部屋を出た。
肩につくまで伸びてきたアサの黒髪は、船生活をしているのが信じられないくらい艶々している。掬うと指の隙間からサラサラと零れ落ちる直毛は俺のお気に入りだ。
早くあの髪に触れて、そこに隠れた項を撫でて……
って妄想している場合じゃない。
「おい、ニールっ!」
まずは談話室を確認しようと廊下を歩いていると、背後から腕を掴まれた。
「うわっ、って、え?!船長。今日はよく会いますね」
「何呑気なこと言ってんだお前は!」
「え?!」
背中に押し付けられた手首がギシギシ音を立てそうだ。痛くて顔をしかめてもお構いなしに船長はそのままで俺の体を壁に追いやる。
「お前な、ほんっとふざけてるよな」
「はぁ?!何のことですか?!」
「自分のしたことわかってねーのか?」
俺、なんかしたか?
腕が痛いってのもあるが、サイを見つける前に船長に会ったばかりだ。その時は何も言っていなかったから、あれから俺がなんかしたってことか?
「俺は、さっきまでケンの部屋にいましたけど」
「それだけかぁ?」
「いや、それ以外してないっすよ!マジで腕痛いんで離してください!」
パッと手を離され俺はバランスを崩して額を壁にぶつけた。
「いってー」
「で、本当にそれ以外はしてないのか?」
「船長、何の脈絡もなく攻撃してこないでくださいよ」
俺を見つめる目は鋭くて、いつも以上に怖い。なんだよ、俺が何したって言うんだ?!
「アサを泣かしたら、許さねーって俺言ったよな?」
「え、アサ?!」
アサの名前が出てきて驚いた俺は身体が固まったように動けなかった。
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