111 / 209

第111話 ニールの浮気疑惑

「待ってください、アサが何て?」 「泣いてるんだ」 「え……」  頭が真っ白ってこういうことかって言うくらい何も考えられない。アサが泣いてる?部屋で待っているはずのアサが泣いてる?ってかなんでこの人はアサが泣いているのを知っているんだ? 「アサはどこですか」 「俺の部屋だ」 「?!」  なんで船長の部屋にいるんだよ!  押さえられていた腕は離してもらったけど、壁に追いつめられて睨まれている状態で身動きなんてとれない。  アサを泣かすようなこと、どこの誰がやったって言うんだ。さっさととっ捕まえて成敗しなければ。 「誰のせいで泣いてるんですか」 「お前だって言っただろ」 「お、俺?!」  ちょっと待った。どういうことだ?ますますよく分からなくなってきたぞ。 「詳しいことは分からないが、お前を探していたから甲板にいるだろって送り出したら、数分後に泣きながら廊下の端っこで丸くなっていたぞ」 「甲板……」 「自分がやったこと分かったか?」  顔が怖いぞ、船長!  アサのことを気にかけてくれているのは嬉しい。俺だって四六時中アサといれるわけではない。他にも信頼できる人がいるって言うのは良いことだけどな。 「いや、船長に言われた通り、サイを探しに行って、甲板で見つけてケンの部屋に戻っただけで……ああ……」 「心当たりがあんのか」  サイがよろけた時に腕で受け止めた記憶はある。もしかするともしかしないかもしれないが、いやそのもしかなのかもしれない。 「あるって言えばあるんですけど、わざとでは」 「それは関係ねーだろ。アサがお前がやったバカな行動が原因で泣いてるんだろ?」  何があったかを説明すると船長は飽きれた顔で首を振った。 「泣かせたらただでおかねーぞって言ったよね」 「待ってくださいよ!これは不可抗力じゃないですか?」 「アサは、」 「泣いてる」 「その通りだ。どうやって弁解するか足りない頭で考えろ」  ひらひらと手を振り「さっさと行くぞ」とジェスチャーした船長の後ろに、慌ててついていく。向かう先は船長の部屋だ。そこにいるアサにどうやって説明しろっていうんだ? 「1か月トイレ掃除の刑だからな」 「はぁ?!」 「そのくらいで許してやるんだから、返事は「はい」だろ」 「いや、でも!」 「なんだ、海に突き落としてほしいのか?」  大声で笑う船長が憎らしいが、アサを泣かしたのは俺だ。  それにしたってよろける人間を避けろって言うのか?  アサが扉の丸窓から見ていたなら、俺らが抱き合っていたように見えたはずだ。  最悪だ。  他の男なんて、どんなにサイが細身で可愛い顔をしてたって、抱きたくもないのに。  自分の不運を呪って俺は船長のあとを追った。

ともだちにシェアしよう!