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第112話 アサの混乱
「ン……」
あれ、眠っていたのかな?なんでだっけ……
頭がぼんやりとして目がちょっと痛い。
ああ、そうだ、ニールを探しに行って、サイと抱き合っているところを見つけちゃって、ショックで泣いていたら船長が部屋に連れてきてくれたんだ。美味しい紅茶とお菓子をくれて慰めてくれたんだけど、途中で泣き疲れて寝ちゃったのかなぁ……
「アサ……」
「?!」
それは、船長の声ではなくて、ニールの声だった。それに、ここは僕たちの部屋だ。
いつの間にか自室に戻ってきたのかな。記憶にないから、ニールが運んできてくれたのかも。
いやだ、サイに触れた手で僕を触れたんだ。
感じたこともない、どす黒い感情がぐるぐるしだした。
「あのな……」
いつもより悲しそうな声が布団にくるまった僕の髪を撫でる。いつもならこうされると心がポカポカするのに、今は泣きたくなってしまう。
「…イ、ヤ!」
「アサ?!」
ニールの手を払うと、パシっと乾いた音が響いた。
なんで僕が泣いているのか、この人は分かっているのだろう。船長の部屋に迎えに来てくれたってことはそう言うことだ。
今の自分の感情を説明するには、僕は言葉を知らなすぎる。それでも、ニールは最後まで聞いてくれるだろうけど、母国語でだって、何て言ったらいいのか分からない。
「船長に、怒られた」
「……セン、チョ?」
「ああ、お前を泣かせたからだ」
掛け布団から顔を出すと、情けない顔をしたニールが僕を見つめていた。
「ごめん……」
「ナンデ?」
謝られたって僕の気持ちはすっきりしない。
「サイ、スキ?」
はっきり聞いてしまおうと僕は勇気を振り絞った。
「なっ!そんなことは絶対ない!俺が好きなのはお前だけだ。あれは誤解だ。あれは、よろけたサイを支えただけでっ!」
何を言っているのか、早口で言われては分からないのに。そのことだって、ニールは知っているはずなのに。慌てて違うんだ、と説明を始めた。
「ナンデ、サイ……」
続く言葉なんて見つからない。知っている言葉なのかもしれないし、まだ習っていない言葉なのかもしれない。今、自分が言おうとしていることが何なのか自分でも分からなくなるくらい僕は、悲しくて、混乱していて、辛かった。
「アサ、信じてくれ、サイとは何もない」
「ナイ?」
「ああ……どうすれば分かってもらえるんだ……」
ぎゅっとニールが布団の端を握ったのが分かった。
辛そうだ。
「ナイ」って言っているってことは、僕の誤解だったのかな。
それとも……
「ニール、ボク、スキ?」
知っている言葉で確かめるしかないんだ。
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