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第113話 ニールの謝罪

「ボク、スキ?」  そんなの当たり前に決まっている。アサだって俺がどんなに好きなのか知っているはずだ。  それをわざわざ確認させるようなことになったのは100%俺のせいだ。 「もちろんだ」 「ン?ワカ、ラナイ」 「俺はアサ、お前のことが好きだ。何よりも好きだ。絶対よそ見なんてしない」  涙に濡れた頬は真っ赤に染まっていて、瞼は腫れて痛々しい。いつもきれいに結われた髪も少し乱れてバレッタがずれ落ちている。 「スキ?」 「好きだ。好きに決まってる」 「サイ、スキ?」 「好きじゃない!」 「ナイ?」  いつもより震えた声色を乗せてアサは俺の目を見つめた。言葉が通じれば、簡単に説明できたのだろう。いや、言っていることが分かったって、心が通じなければ意味はない。要するに信じてもらえなければ元も子もないのだ。 「お前以外は好きじゃない。絶対だ。信じてくれ」  後ろめたいことをしたわけじゃないのに、心が焦り胸が締まる。  どうしたらいいんだ。 「アサ」  真っすぐ手を伸ばすとアサが頬を寄せた。  悲しそうで悔しそうな表情に俺の頭が痛む。わざとやったわけじゃないが、アサを悲しませたのは俺だ。 「ニール……」 「俺は、」 「スキ」 「ああ」  真っ赤になった瞳はいつも以上に濡れていて、漆黒の綺麗な瞳がゆらゆらと揺れていた。 「悪かった」 「ン……」 「許してくれ」 「……」 「ごめん」  俺の胸に顔を埋めたアサから返事は聞こえない。不安に包まれ俺はアサの髪に触れた。 「駄目か?」 「……マダ、ダメ」  ぐりぐりと顔をこすりつけるとアサは小声でそう呟いた。  自分の目で嫌なことを見てしまったんだ。分かっていたってすぐに何もなかったことにはできないだろう。  例えば、逆にアサが他のやつに抱き着いているところを俺が目撃したら……考えただけでも頭に来るな。この野郎。  布越しに伝わる体温はいつもより高い。それだけアサを泣かしてしまったかと思うと胸が痛んだ。 「アサ、好きだ……」 「ン……」  そこから続いたのは静けさだけだった。  指先でアサの髪を弄り、たまに顔を出す項を撫でながら、ずれ落ちかけているバレッタを外しベッドサイドに置いた。  何も言わず、顔も合わせてくれないアサの体温を感じて、自分の行動を後悔して、どう挽回しようかと頭を巡らせる。    この時俺は、熱にうなされているケンやその横で慌てているショーン、それにサイと交わした約束のことはすっかり忘れていた。

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