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1-知りたいことを夢に

ミルキーなプラチナブロンドのストレートの髪に、薄紅色の目。 花びらのように可憐な唇に、なだらかな頬。 無垢で純粋なリリー姫はこの国の宝だ。 使用人にも優しく、家令である私のこともいつも気遣ってくれている。 リリー姫は先日、十六歳になった。 誕生パーティは姫の人柄を表すように、身分の上下にかかわらず、多くの者が集まり、和やかなものとなった。 プレゼントにも、貴重な宝石だろうが、小さな鉢植えだろうが、自分を想って選んでくれたことに心から喜び感謝を述べた。 本当に素晴らしい姫だ。 その中でリリー姫が特に興味を示したものがある。 母方のお祖母様からいただいた虹色のドロップだ。 お母様である王妃は、姫がまだ幼い頃、異国を旅行中に流行病(はやりやまい)でお亡くなりになられた。その王妃のお母様、つまりリリー姫のお祖母様は白い森の魔女だった。 王妃は魔法の才能がなかったため、森から出て勉学し、美貌と知性でこの国の王、ジェルヴラ陛下の心を射止めた。 しかしリリー姫は王妃とは違い、年齢を重ねるごとに魔法の才がどんどん増しているようだ。 誕生日に白い森の魔女から贈られる魔法の道具を、毎年とても楽しみにしている。 「ペッシェ、今年のお祖母さまの贈り物もとても素敵よ。この虹色のドロップを溶かして、寝る前に飲むの。すると、知りたいことを夢に見ることができるんですって」 白い家具で統一された自室のソファに、明るい水色のワンピース姿で座るリリー姫は、膝に子猫、足元にミニブタ、ソファーの肘掛にはリスと、動物たちに囲まれて笑顔を弾けさせた。 「知りたいことを夢にですか。それは素晴らしいですね」 「ええ、歴史のミステリーでも、わたしの個人的な疑問でも、なんでもよ」 「リリー様はどんな夢をお望みですか?」 「……私ね、弟妹が欲しいの」 「ご兄弟ですか。それは魔法を使わずとも、ジェルヴラ陛下にお願いすればよろしいのでは?」 「あら、お父さまには何度もお願いしてるわ。ペッシェだって知っているでしょう?けれど、一人では子供は作れないからってそればかりおっしゃるの。だから、どうすればお父さまが新しいお母さまを迎えて、私の弟や妹を作ってくださるのか、それを知りたいのよ」 「それはまた、難問ですね。陛下はとても王妃を愛してらっしゃいましたから」 「それは違うわ!」 リリー姫の強い調子に驚いて、膝の上の猫がビクンと顔をあげた。 「ああ、いえ、お母さまを愛していたのは間違いないでしょうけど、お父さまのお心はもうとっくに他の方を愛する準備ができているのよ。なのに何かを気にして踏み出せないようなの。ペッシェはそれが何なのか知らない?」 「私などに陛下のお心は図りかねます。ですが、もし陛下に他の方を受け入れるつもりがあるのでしたら、リリー様はどんなお母さまが欲しいですか?」 「お父さまを愛してくださるなら、どんなお母さまでもいいわ。ああ、でも動物が好きな人がいいわね。猫のヒューは可愛がるのにミニブタのモンは嫌いだなんて言われたら、私悲しいわ」 「でしたらリリー様より私のほうが条件が多いですね。どんなに陛下とモンを大切にしてくださっても、リリー様をとても愛してくださる方でなければ、受け入れられません」 「まあ、ペッシェったら」 ふふふと笑って、リリー様が私の手を握った。 私はこのハシュット王家の家令として、宮殿の奥にある王族の居住区で多くの使用人をたばねている。 リリー様を直接お世話する立場にはないのだが、非常に懐かれ、何かあると、いや、何もなくとも話し相手に選ばれ、お部屋に呼ばれることが多かった。 「わたし、ペッシェがお母さまだったらいいのにっていつも思うの」 「私が仮に女性でも、王妃になれるほど美しく生まれてはいないと思いますよ」 「あら、王妃に必要なのは美貌ではなく、国王への愛と国民への慈悲よ。それに、わたしが欲しいのはお母さまなの。顔は今のペッシェのままでもいいわ。いっそ女性でなくてもいいくらい」 「おや、欲しいのはお母さまではなく、弟や妹ではなかったのですか?天地がひっくり返っても私には産めませんよ」 「あん、ペッシェは意地悪ね。どうにかして子供を産めるようにならない?」 「無理です」 リリー様の愛らしい冗談に微笑みを返し、私は部屋を退出した。 リリー姫の父君であられるジェルヴラ・ハシュット四世陛下は、即位後、隣国の侵略を三度も受けながらそれを退け、逆に国土を広げることに成功した勇猛果敢な若き王だ。 私は高祖父の代からハシュット家に仕え、三年前に三十六歳の若さで父から家令を引きついだ。 当時、私は王家の家令を拝命するには若すぎると固辞したが、『幼い頃からの友である君にやって欲しいのだ』と強引に陛下に押し切られた。 ジェルヴラ陛下は王としての資質は充分だが、やはり世間知らずだ。 仮に『あなたと私は幼い頃からずっと主従で、一度たりとも友人だったことなどない』などと言っても、私の言葉の意味を理解できないだろう。 とはいえ、二歳年下の国王を尊敬し、忠誠を誓う心に偽りはない。 それにこの宮殿は人手も多く、多少私に力不足なところがあったとしても皆がよくやってくれている。 夜、陛下の食事の片付けが終わると、私の仕事は終わりだ。 そしてこの宮殿の居住区は、早寝早起きの陛下にあわせ、夜の十時には寝静まったようになる。 私に与えられている部屋は、陛下の部屋とそう離れていないため、たまに宮殿の外に飲みに出る以外は、夜は静かに過ごすしかなかった。 実際はジェルヴラ陛下の居室から遠く離れた場所にある、使用人のための食堂のうち三つがバーとして営業を始めるため、遅くまで人が集まっていたりするのだが、私は家令などを引き受けてしまったせいで、そこに顔を出すことはできない。 もし参加しようものなら、皆が私の目を気にして、憂さ晴らしができなくなってしまうだろう。 いつも通り、シャワーを浴び、無駄に広い部屋で本を読む。 歴史を英雄譚に脚色したこの国の初代王の話だ。 様々な作家が書き、多く出版されているが、この話はなかなかおもしろい。 夢中になりかけた時、部屋をノックする音がした。 今は十時半か。こんな時間に何事だ。 部屋着に上着をはおりドアを開けると、そこにいたのは今日リリー姫の部屋の立番をしている兵だった。 「なにごとだ」 「あ、ああ、い、いらっしゃったのですね」 私の部屋をノックしたくせに、私が出てきたことに動揺している……? 「なにごとだと聞いている」 「じ……実はリリー姫の部屋から……その……」 兵が随分といいよどむ。 「リリー様の部屋から? なにがあった!?」 「そ、その……男たちの声が……」 「…………お……!? 男たちだとっっ!!!それでそいつらは捕えたのか」 この宮殿の部屋の多くは二重扉になっていて、そう簡単に中の声が聞こえることはない。 それが兵に聞こえたということはかなり大きな声で怒鳴っていたということだ。 姫はどんな恐ろしい目にあってしまったのか……!!! 「い、いえ、それが、その……他の者とも話したのですが、一人はペッシェ様の声ではないかということになりまして、まだ室内を確認してはいないのです」 「そんなわけないだろう。私はここにいる!ああ、リリー姫……!」 私はすぐに部屋を飛び出した。

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