姫の部屋の前には兵士が一人、耳をつけて扉に張り付いていた。 しかし、私の顔を見て、サッと背筋を伸ばす。 「……貴様、今日はリリー様の部屋の担当ではないだろう……！」 「あ、いえ、そ、その、もう一人の当番が陛下のお部屋に確認に行ったため、私がここで見張りを……」 「陛下に……？なぜだ？」 「そ、その、声が……もしかすると陛下かもしれないと……」 兵が指さす扉に耳をつける。 そこから聞こえてきたのは……。 「っっっ……！！へ、陛下のはずなかろう！姫の安全を守る必要があるっ！部屋に踏み込むぞ！」 カッカと怒りに煮えた頭でドアを押し開け、姫の部屋に踏み込む。 手前はソファーセットなどが置いてあり、そこには誰もいなかった。 そして奥が寝室。 ……最悪の事態だ。 パーテーションの向こうに大きな天蓋付きベッドがある。 人の動きにあわせ、枕元の灯りが、天蓋から垂れる布に影を揺らめかせていた。 「っんっ！ぁっ……ぁっ……っぁああっ……！！！」 艶かしい声……。 な……なんてことだ……。 怒りで手が震え、目の前が真っ白になる しかし、気をしっかり持ち、事態の把握につとめねば。 「リリー様！！！」 ベッドのそばに駆け寄ると、そこには半裸の男が二人。その傍らには眠るリリー姫。 「………ぁ……リリー様は……無事。服も乱されてはいない……ん？っっっへ、陛下!?」 リリー姫の身が穢されていないことに安堵をしたが、ベッドの上でたくましい背中を汗で濡らし、腰を振っていたのはまさかの、ジェルヴラ陛下だった。 「こ、このようなところでっっ……な、何をなさっているのです……！」 驚きすぎて声が裏返る。 私たちが突入しても、気づかぬように腰を振り続け、ドアの外にまで響く艶かしい声をあげている。 ……んん？陛下の腕の向こうにチラチラと覗く相手の顔を……見知っているような。 「えっっっ!? ペッシェ様!!!!??????」 「な、なんだ？」 「で、ですから、ペッシェ様！」 兵がベッドを指差し必死で訴えてくるが、何を言いたいのかよくわからない。 「で、ですから、陛下のお相手がっっペッシェ様ですっっ！！！」 「っっっっはぁぁぁ？そんなわけなかろう。私は今ここにいる」 「で、ですが、同じ顔です」 同じ……顔？ 「わ、私に双子の兄弟などはいない。と、とにかく姫のベッドでこのようなこと、陛下をお止めしなければ」 ベッドに上がろうとしたとき………。 「リリー！！！！なんてことだっ！！不届き者め！生きてこの部屋を出られると思うなよ！」 「陛下！！」 「え……陛下？」 私たちが今入って来た扉から、ブロンズの髪を乱し、怒りに顔を真っ赤に染めたジェルヴラ陛下が飛び込んできた。 「きっっ貴様！ペッシェ！よくも信頼を裏切りおったな！叩き斬ってやる！」 まっすぐ私の元にやってくると、ぎゅうぎゅうと首を締め始めた。 陛下も混乱しているようだ。斬られなくて良かったと思いつつも、死にそうなことには変わりない。 私の視界には鬼の形相のジェルヴラ陛下と、半裸で快楽に溺れるジェルヴラ陛下……。 「へ、陛下！おやめください！ペッシェ様が死んでしまいます！」 「構わん！姫をたぶらかしたこの不届き者を殺してやる！」 私の首を閉める陛下を、兵士が必死で止める。 「誤解です！ペッシェ様はリリー姫を穢してなどおりませんっ！！い、いま、陛下がペッシェ様を穢してるのです！」 「何をわけのわからんことを！」 「姫のベッドをご覧くださいっ！こちらのペッシェ様より、あの二人を止めるべきです！！！」 「あのふたりだぁ……!? やっぱりぺッシェではないか！ん？こっちにもペッシェ？」 首を閉める力が緩み、すかさず私は陛下の手から逃げ出した。 「げほっ……げほっ……よくごらんください……アレは……げほっっ……幻影です」 床にへたり込みながら、声を振り絞った。 「幻影……？」 「実体のように見えますが、周囲にほんの少しブレのようなものがあります。推測ですが、あれは魔女の魔法によるものではないかと」 「魔女の魔法？そんなわけなかろう！リリーの祖母がこのようなおぞましいものを見せているとでもいうのか」 「い、いえ、そういうわけでは」 いいよどむ私に向かい、陛下がスラリと剣を抜いた。 慌てて兵士が間に入り、もう一人の兵士が、ベッドの上で手をブンブン振って、交わる二人に実体がないことを確認してくれた。 「ペッシェ、貴様、何を知ってる？なぜこのようなことになっているのか、知っていることを全て言え。隠しだてするとただでは済まんぞ」 戦場に赴くことのない私は、歴戦の将すら震わせるという陛下の鬼の形相を初めて見た。 懸命に冷静さを保ちながら、姫の誕生日プレゼントの魔法のドロップのこと、そして、姫が弟と妹、そして母親を欲しがっていることを伝える。 「枕元にドロップを溶いたと思われるグラスがあります。ですからこれは姫が見ている夢なのではないかと」 「夢ならなぜこのように我々にまで見えるのだ！それに、この惨状がどう姫の望みを叶えるというのだ！」 そんなことまで私が知るはずない。 けれど、喉元に剣を突きつけられ、必死で考える。 「姫は魔法の勉強などはしておりませんが、年を増すごとにその才能を増し、白い森の魔女にいただいた魔法の道具は通常の何倍もの効果を発揮します。ですから、夢がこうやって具現化してしまったのではないかと」 「このような夢を姫に見せるなど……止めろ！魔法を止めろ！」 魔法を止めるなど、そんな無茶な……と思ったが、これは夢、姫を起こせばいいだけだ。 姫の枕元に駆け寄った。 「……あ、陛下！姫も夢の中におり、この光景はご覧になっていないようです」 「はっ？何を分けの分からぬことを」 「姫の姿に幻影の姫が重なっております。つまり、姫は今、ご自分が寝ている夢をみているのであり、背後の惨状はご覧になっておりません」 「な……なぜそう言い切れる」 「はい、重なっている姫の幻影が『私はただ眠るだけでいいということなのかしら』と、猫のヒューとミニブタのモンに話しかけております」 私の言葉に陛下がホッと安心したように息をついた。 しかし……。 『ぁひっ……ぺっしぇぇぇ、まだイってはならぬのか？もう、もう壊れそうだイチモツの縛めを解き、愛しい尻穴に種付けさせてくれっっ！』 『んふぁ……なんと堪え性のない。濃厚な精液を注ぐために我慢なさいと申し上げたのに、朝も昼も私のイチモツをしゃぶっては精を漏らしたのはどなたです？』 『らって、らって……ぺっしぇのオチンチンが美味しそうなのが悪いんだ』 「っっっっっ！！！！！！ペッシェェッッッッ！！き、貴様っ」 ベッドの上の聞くに耐えない睦言に、陛下が激昂して剣を振り上げた。 「す、全ては幻影！リリー様の夢でございますっっ」 「い、言うに事欠いて、清純な姫がこのような事を望んでいると!?」 「いっ、いえ、これは恐らく魔法の暴走。姫は私のように親しみを持てる人物を新しいお母様にと望んでおられました。ですので『陛下の子を産む相手』の姿が私に置き換えらえてしまったのではないかと……」 「こ、こ、こんなおぞましいもの見ていられるか！ペッシェ、姫を目覚めさせよ！」 「ぎょ、御意！」 いつもは穏やかな目覚めのために静かに起こすよう侍女に指導をしているが、今はそれどころではない。リリー姫の肩を掴んで揺り起こした。 ……いや、揺り起こそうとした。 しかし。 ピシィッッ！ 見えない何かに激しく弾かれ、私は姫のベッドの上に転がってしまった。 「っつ……痛い」 『えっ！痛い？ペッシェどこが痛いのだ？』 陛下が間近で私の顔を覗き込んでくる。 『だいぶ上手になったつもりなのだが、どうすればいい？ペッシェの言うことならなんでもきくぞ。ほら、命じてくれ』 熱い体、胸はトクトクと高鳴り、背中を伝う汗さえ心地いい。 私の中を穿つ剛直は優しくゆるゆると動き、媚びた目が私を昂らせた。 「……命じてくれだなどと生意気を言うのはどの口です？赤ん坊に戻って口の使い方を学び直さないと駄目ですね」 およそ自分の言葉とは思えない、ジェルヴラ陛下への侮辱がするする口から出てくる。 『うんっ……お口の使い方、教えて、ペッシェェェ』 「ジェルは本当に駄目な子ですね。ほらあなたの大好きなおしゃぶりでも咥えていなさい」 『わぁい！雄っぱいおしゃぶり大好きぃ！』 「こら、誰が腰を動かしていいと言いました？私を雄っぱいでイカせるまで、その粗チンは動かさないでください」 『ぁっ……んっ。おっ雄っぱい吸ってるだけでイっちゃいそう。ぁぁっ……ペッシェ……ペッシェの雄っぱいぃぃぃ！』 「きっっっっ貴様！何をほざいているのだっっ！！」 目の前にブン！と、陛下の剣が振り下ろされた。 しかし、己の幻影を切り裂こうとした剣は、キィィィィン！と余韻の残る音を立てて弾かれ、ガシャンと床に落ちた。 「おや、おや、怖い人がいますね。怪我などしていませんか、ジェルちゃん」 『うん大丈夫。ペッシェの雄っぱいをチュッチュってすると、お尻の穴キュキュってしてくれるでしょ？ふふっ。この時が一番しあわしぇ〜〜』 「ペ、ペ、ペッシェっっ！貴様っ、幻影と一緒になって私を愚弄するとは！許さんっ！許さんっっっっ！」 「へ、陛下！」 おのれを見失った陛下が兵士が止めるのもきかず、ベッド上の私たちに掴みかかってきた。