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真っ直ぐなんて、帰れなかった。
ノンさんの店に飛び込み、いつもと変わらない情景に……全身の力が一気に抜け落ちる。
「……少しは落ち着いたかい?」
カウンター端に座る僕に、ノンさんが話し掛けてくる。
サービス、とドリンクを出して。
「………はい。まだ少し、動揺してますけど」
明るい店内。喧騒と熱気。
それら全てが、氷を溶かすように少しずつ、強張っていた僕の心を落ち着かせてくれる。
僕はノンさんに、先程あった事を全て話した。
最初は穏やかに聞いていたノンさんが、キスの下りで表情を一変させる。
「──そんな事が」
「うん」
「怖い思い、したね……」
「……え」
言われて初めて気付く。
驚いたけど……
……怖くは、なかった……
不思議な雰囲気を纏い、怪しげだけど優しく穏やかな表情をしていて。
……綺麗な瞳、だった……
「それにしても。オッドアイの島民なんて知らないなぁ。
……脱獄囚、ではないといいが」
「──!」
心臓が、大きく鼓動を打つ。
その刹那。
心の奥でずっと燻っていた──島民の期待に応えられなかった不甲斐ない気持ちが再燃し、僕を執拗に責め立てた。
「………外を見てくるよ」
長い棒を手にすると、警戒しながらノンさんが戸外へと出て行く。
「……」
唇に、そっと指先を当てる。
触れたのは、ほんの一瞬。
だけど……不思議と嫌な感じはしなかった。
あの時みたいに……
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