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僕を見下ろす、白金の満月。 それを遮り、人の姿をした彼が僕を覗き込む。 口角を上げ、僕に微笑んで。 この世のものとは思えない、美しい瞳を僕に見せ……そっと額に唇を落とす。 ……んぅ、……はぁ……、 それだけで。 体中の血液が沸騰し、上気した肌がしっとりと汗ばんで……熱い吐息が漏れる。 理屈なんかじゃない。 この人だ、……って感じる。 細胞のひとつひとつが、彼を求めてる。 ……これが、運命の番。 唇を塞がれれば……気持ちよりも先に下腹部が疼き、孕みたい欲求に駆られ秘部が熱く濡れる。 ……でも、どうして…… 狼は、全滅してしまったんじゃ…… 唇が離された後、柔く瞼を持ち上げる。 視界に映る、彼の左胸── 刃物で突き刺された様な、深い傷跡。 「──!」 これ、祐輔のお父さんが………? 手を伸ばしそのみみず腫れの様な傷跡に指先が触れれば、彼が僕の手首を掴む。 そして導かれたのは、彼の右胸。 ……トクン、トクン、 そう、か…… 心臓が右にあって…… ……じゃあ、もしかして…… 今までずっと、一人で生きて…… 見上げた僕の胸に手のひらを置き、彼が優しく微笑む。 ──もう、一人じゃない。 そう言われた様な気がした。 柔く瞑られる、澄んだオッドアイ。 僕も瞼を閉じると、その裏に映し出されたのは………祐輔の笑顔。優しい瞳。 僕を揶揄った唇。 背後から抱き締めてきた、力強い腕。 抱かれた温もり。 祐輔の匂い。 首筋に付けられた、噛み痕── 祐輔との思い出が走馬灯の様に駆け巡り、切なく心が震える。 ……好き……祐輔…… 大好き、だったよ…… できる事なら、ずっと傍にいたかった…… 祐輔の、番になりたかった…… 『葵は、未来に生きる者達の……希望の光、なんだよ……』 もし、過去の清算ができるとしたら。 祐輔のお父さんが犯した罪を…… 人類が犯してしまった罪を償えるとしたら……僕しかいない。 僕が、彼の子孫を残さなくちゃ…… ……だから、 こめんね、祐輔── 白金の満月に見守られ 洞穴近くの茂みの中 僕は、彼に抱かれ………番の証を刻まれた。

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