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第91話 恢復 Ⅴ

「…創は 何かを思い出すって どういう感じなの⁇」 物井に創の事を聞いてから ずっと気になっていた 常に色んな事が頭にあるのか、もしそうなら それはどんな感覚なのか、それとも 普段は自分と大差無いのか 説明されても解らないかもしれないけど、どうしても気になってしまっていた 俺の問い掛けに 創は困った様に眉毛を下げて、斜め下の方に視線を向けている やはり言い辛い事なのかと 申し訳なくなり、言いたくなかったら大丈夫だと伝えようとしたその時、創が俺の手を ギュッと握った 「…変な事言っても良い⁇」 意を決した様な表情に 指を絡めて握り返した 「勿論」 俺が笑いかけると 創もぎこちないながらも、笑顔を見せてくれた 「…頭の中に…図書館があるの」 「図書館⁇」 「…うん…文字とか 絵とか 写真とか、いっぱい本があって そこから見たいのを選んで確認する テストとかは そうやって答えを書いてる感じ…」 「そうなんだ…」 当然俺には全く無い感覚だったが 言おうとしている事は理解出来たし、こうして 一緒に過ごしている時は 俺の事を見ていてくれるのなら それで良いと思えた 「…でも」 「うん⁇」 創の表情が曇り 手に力が込められた 目が潤みだし 呼吸がしにくそうに見えて、少しでも楽になってくれたらと 背中をさすった 「…たまに 勝手に本が落ちてきて、見たくないのが 見えちゃう時があって…」 「…うん」 「そうすると 元に戻せるまで、わーってなっちゃう…」 それを聞いて 今までの事が、すごく納得出来た 思い出したくない事が 鮮明に蘇るなんて、誰だってそうなるに決まっている 「…い…いつも…ごめんなさい…」 「謝らなくて良いよ 創は何も悪くないんだから」 「…佑吾」 「話してくれて ありがとう 創の事知れて 嬉しい」 「…ゆ…ゆう…ご…」 両頬に手を添えると 目尻に何度も吸い付き、零れそうな涙を塞き止めた 「次 創の見たくない本が落ちた時はさ、俺にも戻すの手伝わさせて⁇」 俺の言葉に 創は 一瞬目を大きく見開き、可愛い顔を くしゃくしゃにして 泣き始めてしまった 「…ゆ……う…うぅ…」 その後は特に何か言葉を交わす訳でも無く、ただずっと抱き合っていた 「…創…好きだよ」 時間が創を癒してくれないなら 俺が癒してあげたい 改めて そう思った

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