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第112話 防疫 Ⅳ
「ぼ…僕 大丈夫だよ⁇ こういうの…慣れてるから…」
笑いながら そんな事を言う創に 絶句してしまった
改めて正面から向き合い 頬の傷を見た俺は、怒りと悲しみが入り混じる複雑な思いを抱えながら その傷に触れた
「…創」
「ご ごめんなさい…宅配便だと思って…ドア開けちゃって…それで…」
表情は にこやかなのに 胸が痛む
綺麗な髪は 左右がアンバランスになってしまっていて、尚更痛々しさを 助長させていた
「…創」
「…な…生物だから…冷蔵庫に入れて欲しいって言われて…佑吾に 電話したら良かったんだよね‼︎」
その話を聞いて 今度こそ全部納得出来た
きっと創の行動は 俺を思っての事だと思うと、言い様のない悔しさが込み上げて来て 湯船の中で拳を強く握り締めた
「もう大丈夫だよ 僕ね」
「創」
言葉を遮り 少し強めのイントネーションを付けると、細い肩が ビクリと震え 不安そうな瞳で 俺の事を見上げている
「…こんな事があった後に 笑ったりしないで⁇」
「…え⁇」
創は青い瞳を見開きながら、戸惑いの色で俺をジッと見つめている
「悲しい事があったら泣いたり…
嫌な事されたら怒ったり…
俺の前では そういうの、ちゃんと見せて欲しい」
創の顔から張り付いていた笑顔が消え、唇が小刻みに震え出した
「…ぼ…僕…」
「うん…」
見る見る内に潤いを持つ瞳
その涙が 一筋頬を伝うと、その後はダムが決壊してしまったかの様に 溢れ出した
「…や……嫌だった‼︎
佑吾以外の人に触られるの…すごく 嫌だった‼︎」
「…うん」
やっと俺に抱き着いてくれて 俺もキツく抱き締め返した
「もう絶対嫌だ‼︎
佑吾以外の人なんて…絶対嫌だ‼︎」
「…うん…俺も 嫌だ」
悲痛な叫びは水音と呼応する様に反響して、胸の奥深くに突き刺さる様だった
それでも俺は 創の濡れた髪に口を寄せながら、その声にずっと耳を傾け続けた
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