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第1話 出逢い

其処は 悪趣味の一言に尽きる場所で、良くしてもらっている社長からの誘いじゃなければ、一生立ち入る事は無かったであろう建物だった 「ようこそおいで下さいました」 出迎えてくれた男は 40代半ば位の中肉中背な体型で、どこにでも居そうなタイプの人間だ 成金の様な見た目には 不信感しかない 「ここは 紹介がないと入れないんだよ 勿論 α限定だしな」 俺の隣に立つ社長は パッと見 小綺麗な紳士なのに、こういう場所に出入りしているなんて若干の軽蔑を覚える 「凄いですね こういった場所は初めてなので 少し緊張します」 ヘラッと笑えば、そうだろうとでも言いたげに 笑顔で頷いている 若者を珍しい場所に連れて来てやった、という自己満足にでも 酔いしれているのだろう 俺はバレない様に こっそり溜息を吐くと、先程確認の為に渡したαの証明書を、スーツの胸ポケットにしまった 嫌々連れてこられたこの場所は、郊外に立つ 外観はなんて事のない建物 が その中身は Ωの売春斡旋所 親に売られた子もいれば 連れ去られた子もいると聞く でも事件にはならない Ωだから 皆 DVDでも借りる程度の感覚で彼らを買っていくのだと、行きの車の中で 楽しそうに話していた 「さ こちらへどうぞ」 少し廊下を歩けば 目の前のには 二つ扉が現れた ゆっくりと重厚な扉が開き、その中に広がる非現実的な光景に 思わず足が止まった 透明なショーケースが ズラッと左右に並び、その中には 簡易的なベッドとトイレがあった プライベートは 一切無いであろうその箱の中には、目鼻立ちの整った少年や少女が入っている 皆白いワンピースを身に付けていて、鉄で出来た首輪が 苦しそうに見えた その姿に 思わず視線を逸らさずにはいられない 「どうだい 凄いだろ⁇ 中々こんな数のΩは お目にかかれないよ」 「…はぁ…そうですね」 気分悪い しかし この男の機嫌を損ねるわけにもいかず、仕方なく顔を上げ チラッと横目で彼らを見た 一番驚いたのが その中には 俺に手を振ったりして、自分をアピールする子がいる事だった それも一人二人では無く、步く度に 皆 笑顔を振りまいてくる 「ははっ、君 格好良いから 皆買って欲しくて必死だな」 「…え」 言われてみれば 羨望の眼差しに見えなくもない その異様な光景に ゾッと背筋に悪寒が走った 「気に入った子が居たら レンタルしたら良いよ それで良かったら 買い取れたもするし まぁ 値段はピンキリだけどね」 「…はぁ」 帰りたい そう思った時だった 「ああ‼︎ また‼︎ コッチ向け‼︎」 案内係の男が 苛立った様にプラスチックの壁を叩いた 反射的にそちらを見ると、ベッドの隅で体育座りをしていた子が、震えながら此方を振り返った 「…っ‼︎」 その姿を見た瞬間、全身を稲妻が駆け抜ける様な衝動に駆られた あまり信じてはいなかったが、運命とか本能とか そんな事が本当にあるならば、コレがそうなんだろうと思った 「お〜 可愛いな この子は男の子か⁇」 「そうなんですよ‼︎ アルビノっていう 珍しい先天性の遺伝子欠陥を持ち合わせてましてね〜 綺麗でしょう⁇ 遺伝子欠陥といっても、色味以外は普通の人と同じですからね 至って健康ですよ」 得意げに話す男の横で 社長もウンウンと相槌を打っている 俺も 初めてショーケースに近付き 温度の無い板に触れた 中に居る子は 黄色がかった白髪と、同じ色の睫毛に覆われた瞳が印象的だった 目の色は 俯いている上に 遠くて良く見えない さっきまでの嫌悪感から一転 華奢な真っ白な身体に 触れたいと思っていた 俺の手の直ぐ下には『創 15才 』と書かれたプレートが掛かっていて、自分よりも七つも年下の子に、こんな気持ちにさせられているのかと、若干複雑な気持ちになっていた 「…この子 いくらですか⁇」 更に信じられない事に、自分は絶対に言わないであろうと思っていた台詞が 、勝手に自分の口から滑り落ちていた

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