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第192話 魅了 Ⅲ〜side榎木〜
あ〜
そろそろ 生徒会に顔出さないとまた桃坂先輩に怒られる…
部活の前に少しだけ行くかと 別館に来たまでは良いものの 結局眠気が勝ってしまい、よく使う空き教室で横になっていると10分もしないうちにガタガタと喧しい音を立てて人が入ってきた
何と無く何が起こるのか察したが、面倒だと思い そのまま また目を閉じた
「身体も白!! 作り物みてぇ…」
その言葉に パチリと目を開けた
身体を起こし、音を立てない様にして近寄ると思い描いていた通りの光景が目の前に広がっていた
其処に居たのは 3年の先輩四人と1Aの天使ちゃん
これは恩を売るチャンスだと思い、ポケットに入っていた携帯を取り出した
「は〜い
強姦で訴えられたく無かったら、その子離して下さ〜い」
「ゲ!! 榎戸!!」
「ヤバ…」
「ほら、早く離して下さいよ
じゃないと 早急に生徒会で議題にしますよ⁇
それとも、今から俺と殴り合いでもします⁇」
「わ、分かったから!!」
こんなくだらない事をする愚か者でも、俺に喧嘩を売る程 バカではないらしい
ドタバタと情けなく去って行くのを見送ると、目の前でガタガタと震えている天使ちゃんの側に歩み寄った
肌蹴た姿には悶々とさせられたが、それよりも折角忠告してあげたのにという呆れにも似た様な気持ちの方が強くて、小さく息を吐き出していた
「大丈夫⁇ だから危ないって言ったのに…」
目線を合わせる様にしゃがむと、細い肩が大きく跳ねた
一生懸命ボタンを留めようとしてるみたいだけど、未だ震える手の所為で それは叶っていない
「かして⁇」
白い手を下に下ろさせて、小さい子に着せてやる様に自分の手を動かした
乱れていたネクタイやベストも直すと放り投げられていたブレザーを取りに行き、細い腕を掴んで袖を通させてあげた
されるがままの天使ちゃんの顔を覗き込むとポロポロとまた涙を流していて、その艶っぽさに ゴクリと生唾を飲み込んだ
しかし ここで押し倒してしまったら、折角少しは上がったであろう俺の好感度も下がってしまう
何度か深呼吸を繰り返した後、自分の袖口でその涙を拭った
「…あ…あの…ごめんなさい…ありがとうございます…」
やっと喋ってくれた
昨日も思ったけど、その声は男子高校生とは思えない程 か細くて可愛らしい
「ん〜⁇ 全然良いんだけどさ
今回は偶々俺がここでサボッてたから助けてあげられたけど、次は分からないよ⁇
ああいうタイプの人達は 桃坂先輩の名前もあんま効果無いし」
実際 殆どの奴らは桃坂兄弟の名前にビビッて手を出さないだろうけど、ああいう馬鹿な奴らは無理
お坊ちゃんが多いうちの学校にも、こういうタイプの奴っているんだよな…
でも 多少のリスクがあってもこの子に触りたいっていう気持ちは 俺にも解る
「…でも…絶対卒業しなきゃいけないので…」
「うん だからさ」
真っ白な頬は 滑らかでずっと触っていたくなる
両手を添えたまま下を向いていた顔を自分の方に向かせると、海の様な瞳に見つめられてドキッと心臓が跳ねた
縁取られた睫毛は日本人離れしていて尚更神秘的に見える
その瞳を見つめていたら、この子をどんな形でも良いから自分の物にしたいと思った
昔から手に入らなかった物なんて無かった俺はかなり軽い気持ちで 思った事を口にした
「俺と付き合おうよ
良いじゃん学校内でくらい
他のα試すつもりでさ」
「…他の…α⁇」
「そ」
だってその方が良いじゃん
まだ15だよ⁇
他の人はどんなんなのかとか気になるでしょ⁇
そう思って言ったのに、天使ちゃんの綺麗な目からはどんどん色が無くなっていく
まるで深海の様にすら見える変化に、心の中が掻き乱されていくのを感じた
「天使ちゃん⁇」
そう呼び掛けると、彼は少しだけ口角を上げて笑った
その顔は 生気を感じられない瞳と相まって、まるで本物の人形の様で背筋からゾワッと鳥肌が立った
「…そんなの…嫌って程 知ってます…」
そんな顔から伝って落ちる涙は この世の物とは思えない程綺麗で、その雫が床に落ちるよりも先に 俺がこの子に堕ちてしまっていた
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